【サービスとホスピタリティの違い② 】マニュアルが組織を弱くする!?(2)

こんにちは、日本歯科ホスピタリティ協会の代表・河合良一です。

前回の前編の記事では、マニュアル・規則という側面からサービスとホスピタリティの違いをお伝えしました。

<前回までの記事>

マニュアル化、そして規則をつくるのは良い面もありながら、弊害も生まれやすいという内容でした。

この話をするといろいろな質問を受けることがあります。今回からいくつかの記事で疑問に回答していきたいと思います。

マニュアルや規則で縛らないと不安

一番多い質問が「マニュアルや規則で縛らないと、スタッフが勝手な判断で仕事をして混乱が起こるのではないか」というものです。

前回の記事でお伝えしたように医院として最低限の水準をマニュアル化・規則化するのは業務を円滑に行うためにも、医療の質を保つためにも、労務の面でも大切です。

特に歯科医院は医療機関なので失敗の許されない範囲の業務があり(この範囲も医院ごとに異なります)、その部分は厳格に守ることが求められます。

ただ「マニュアルが最優先されるべき絶対的なもの」ではなく、あくまで最低限の水準としてほしいのです。

では、業務マニュアルと個別対応の柔軟な対応を共存させるためにはどうすればよいでしょう。

そのために必要なのは、安全な範囲内であれば「目の前の人のためになることであれば、ルールになくても(もしくは逸脱しても)チャレンジできる職場」であるかどうかがポイントになってきます。

 失敗ができる職場づくり

マニュアルにないチャレンジには失敗はつきものです。成功もあれば、失敗もあるでしょう。

「勝手に何をやっているの?ルール教わっていないの?」と自分で判断したことを頭ごなしに叱責したり、マニュアルから逸脱したことを強く責められたりする職場ではチャレンジ自体が起きません。

つまり、自分で判断することは「危険な行為」となり、ルール内のことや指示されたことしか行わないようになります。

そもそも失敗は誰にとっても怖いのでチャレンジが苦手な人が多いにも関わらず、叱責までされるなら最初からチャレンジしようとは思いません。

要は、「目の前の人のためにチャレンジした場合には、失敗してもOKである環境」が大切ということです。

「失敗はOK」のための前提条件

しかし、やみくもに失敗を恐れずにチャレンジするのは勇気ではなく蛮勇です。「失敗ができる職場」づくりをするなら、前提として2つのポイントを全体で共有していることが必要です。

■失敗が失敗ではなくなる2つのポイント

  • 懸命に取り組んでいること(考える、学ぶことも含めて)
  • 失敗を糧にすること(次の機会や自分の成長に活かすこと)

 

患者さんのために、仲間のために日頃から学び、未熟なことの克服のために練習に取り組む。

そして、目の前の人のために自分なりに考え、懸命に取り組んだ結果、失敗した。しかし、その失敗を自らの成長を糧にする。そうすれば、失敗は失敗ではなくなります。

この失敗への考え方を「当院で仕事をする上での基本スタンス」として医院全体で貫くことができると、スタッフの中で失敗に対しての過剰な恐れが少しずつ減っていき、チャレンジしやすい環境になっていきます。

「目の前の患者のため」と言うと診療は回るの?

ここまでお伝えしても、さらにこんな疑問が生まれるかもしれません。

・「スタッフに、目の前の人のためにチャレンジしてOK」という話をしたら、診療が押してしまってもDHが「目の前の人のために時間をかけています」と時間を守らなくなってしまうのではないか。」

・「目の前の人と話すことに集中しすぎて、時間が押していることを気にしなくなるのではないか」

たしかに、ただ判断の自由を与えるだけでは問題が多発するはずです。特に歯科医院の場合には時間がネックになることが多いのではないでしょうか。

ここで大切なのは、次のポイントです。

成功も失敗も一緒に「糧」にする

明らかに院長先生や幹部スタッフと感覚がずれた失敗を行った場合には、判断基準や考えのズレがあるはずです。大切なのはこのズレを一致させていくことです。

失敗を糧にするということは、これを一致させていくということでもあります。そのためには対話をするしかありません。

もし当事者のスタッフが懸命に考え、何らかの意図のもとにチャレンジをし、それでもうまくいかないことが起こったときには、院長や幹部スタッフが一緒に振り返りをしてください。

もしくは、ルールにはないことをして成功した事例があるならば、その判断のどこが素晴らしかったのかを医院全体で振り返って、共有することもよいでしょう。

つまり、成功事例も失敗事例も活用して1人1人の判断基準を合わせていくということです。

「視野・視点」を高めることで判断基準が磨かれる

診療中に「いま、ここで、その人のために」を適切に実行するのは、目の前の患者さん、目の前の状況だけを考えた「短期的・局所的」な視野・視点ではできません。

例えば、後に来院する患者さんのこと、目の前の患者の口腔内状況、次回の来院可能時期、住んでいるところ等まで考えるなど、時間軸を長く考えたり、医院全体のことを考える「長期的・大局的」な見方が求められます。

新人スタッフがすぐにこの視野を持つことは不可能です。そのため新人や若手スタッフがチャレンジするのは難しく、怖いはずです。

また、経験を積むことで自然に身に付けられるのは、ごく一部のスタッフだけです。ですので、日頃から自分や仲間がチャレンジした成功・失敗事例から学ぶ中で視点や判断基準を磨いていただきたいのです。

結果、長期的には医院全体でホスピタリティが多発する歯科医院になっていきます。

どうやって振り返りをすればいいのか

あくまで一例ですが、振り返りの際には以下のようなポイントを押さえてみてください。失敗事例の場合、当人とはなるべく当日中に振り返りができるとよいでしょう。

注意点として、感情的に叱るのではなく、冷静に、今後につなげようというスタンスで対話してみてください。

頭ごなしに、かつ感情的に叱責した時点で「失敗できない危険な職場」となります。

■失敗事例の振り返り
  • 何が起こったのが(事実確認・状況確認)
  • その時何を考えて、どう判断して、何をしたかを聞いてみる
  • いま、どう感じているかを聞く
  • どうすればよかったか、考えてもらう
  • 視点と判断基準をすり合わせる

※全体で共有する際には、本人を吊るし上げる場にすることはやめましょう。失敗は財産であり、誰にでも起こり得ることなので、皆ででよくなろうというスタンスは崩さないようにしましょう。可能なら事例ならチャレンジへの称賛もしましょう。

 

■成功事例の振り返り

  • どんな状況だったのか
  • 具体的に何をしたのか、どう喜んでもらえたのか
  • 何を、どう考え、どう判断したのか(思考プロセスを聞く)
  • チャレンジしたときの気持ちと今の気持ちは?
  • 医院としてのフィードバック(何が素晴らしかったか伝える)

※終礼や全体ミーティングなどで振り返るのもおすすめです。

 コツコツと積み重ねることが格段の違いを生む

何かあるたびに日々振り返る、伝えるというのは慣れるまではかなり億劫なものです。

しかし、ここをコツコツ積み重ねないと「気が利くスタッフ」は、昔からいる多くの苦楽をともにした古株のスタッフばかりで、時が経つにつれてどマニュアル化されたスタッフばかり・・・ということが起こります。

もちろん、なかなか身に付かないスタッフもいますが、医院全体で患者体験を向上させるなら全体の底上げが重要です。

日頃から根気強く伝え続けている医院・そうでない医院では5年・10年先には、医院としての患者に対する提供価値や、スタッフの成長度合いにとんでもない差がつくことになります。

幹部スタッフが育成される

時間と労力を割くモチベーションの1つとしていただきたいのが、未来の幹部育成となる点です。

日頃から思考や視点を共有し続けることで、院長先生や現幹部スタッフと視点や判断基準を共有できており、互いに信頼できる優秀な幹部スタッフが育成されます。

幹部という役職名だけでなく、価値観や判断基準が共有できている幹部スタッフが1人いるだけで組織は格段に安定します。そんな人材がさらに1人、2人と育つためには日々の対話は欠かせません。

ぜひ、チャレンジしてみてください。

まずは院長・幹部が「長期的・大局的」な視点を

多くの企業が効率化のためや、リスクを恐れてマニュアル・規則で管理しようとします。マネジメント側からするとその方が圧倒的に楽です。

しかし、それは自社の利益や目先のリスク回避という「短期的・局所的」な視点ではないでしょうか。

繰り返しになりますが、マニュアル・規則による「管理型のマネジメント」ではチャレンジも失敗も成功も生まれなくなります。

すると、言われたことしかやらない、気が利かない、判断ができない、責任を取りたくないスタッフが続出します。結果、仕事の楽しささえ失われていきます。

患者さんの受け取る価値が下がったり、定着率が低下したりするだけでなく、本来その人が発揮できたはずの可能性を摘んでしまう結果にさえなり得るのです。

院長先生も幹部スタッフのみなさんも大変はありますが、まずは自分たちから「長期的・大局的」な視野視点を持って「マニュアルで縛る管理」ではなく、マニュアルを活用しながら「チャレンジできる」組織を目指してみませんか?

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