こんにちは。日本歯科ホスピタリティ協会の代表・河合良一です。
前回の記事では、サービスとホスピタリティの違いを理解するために分かりやすい、2つの言葉をご紹介しました。
前回の記事(【サービスとホスピタリティの違い① 】 ホスピタリティって、何?)
サービスは画一的に、効率的に経営を行うのに便利なもの。ホスピタリティは個別対応により「絆」や「つながり」を育み「顧客づくり」に寄与するという内容でした。
今回は、歯科業界でも大切にしている医院が多いマニュアルなどの仕組みやルール・規則というものから、サービスとホスピタリティの違いを考えていいきます。
サービスはマニュアル化される
いつでも、どこでも、誰にでも同じことを画一的に提供するには、「マニュアル化(ルール化)」がとても便利です。
マクドナルドのようにチェーン展開する場合には特に不可欠です。
沖縄の店舗ではてりやきバーガーの味が濃くて、北海道では薄い別の味がする、ということではマクドナルドが提供したい「同品質の商品」がお届けできなくなってしまいます。
医療の現場でもマニュアル化・ルール化が大切なことはみなさんがよく認識しているはずです。何年か前から歯科業界でもマニュアルを作成するセミナーも隆盛ですね。
歯科医院の場合には、例えば滅菌・消毒の方法が人によってやり方が異なってしまうというのはかなり危険です。
また、器具や材料の場所を決めておらず人によって置き場所がバラバラだと業務効率も悪くなって診療が回らなくなります。
他にも、就業規則は法律の側面からも整えるのが必要だし、医院ごとに出勤のルールや業務のルール、掃除のルールなどを決めていることかと思います。
それらをつくることも、守ることも、医療の質を保ったり、円滑に業務を行うためには大切なことです。
しかし、組織作りをするときにはマニュアル化・ルール化による弊害についても知っておく必要があります。
マニュアルを最優先すると客・患者が不在になる
マニュアルは、画一化や効率化、もしくはリスク回避のために不備がないようにつくられます。
それはほとんどが、企業や医院側の都合のためにつくられます。
そして自分たちの都合を守ろうとするほど、マニュアルが最優先して遵守すべき規則となっていきます。
そうやってマニュアルやルールを徹底している組織ほど、客(患者)の個別の顔や事情を見ることなく、客(患者)という名の「匿名の相手」に仕事をするようになりがちです。
要は、相手の事情・都合・背景などよりも「自分たちの都合」を最優先して仕事をするようになります。
本来の、お客さん・患者さんによい商品、良い医療、良い体験を提供したいという目的が、マニュアルを守るということに目的に転じてしまうことが起こるのです。
そうするとマニュアルやルールを守る事が仕事になり(それは仕事ではなく、作業であると言っています)、そこに相手への感情・心といったものが失われがちになります。
そうなると、働く人たちの感情や表情までが消えて行き、仕事がつまらないものとなる要因の1つとなります。
また、マニュアル化されただけの仕事は相手の感動も生みづらくなります。
例えばホテルに宿泊した際。部屋からフロントに電話をすると「こんばんは、河合様。いかがいたしましたか?」と名前を呼んでくれます。
一見ホスピタリティのようにみえるし、何ら不快ではないものの、これに対して特に感動はありません。
なぜなら見ているのは私の顔ではなくPCモニターに表示されている私の名前であり、誰に対しても同じことをしていることを知っているからです。
考えない(考えられない)スタッフが育つ
マニュアル、ルール、決まりを守ることを最優先して仕事をしていると、個別の患者のことを見ることがなくなっていきます。
そうすると個別の状況に応じて「この人のためには?」「この状況ではどうしたらいい?」ということを考えるのではなく、マニュアルの範囲で「ルール上どうすべきか?」ということ考えるにとどまります。
そうすると、自ら相手のために考えるという能力が育ちません。すると、多くの院長先生が悩んでいる「自分で考えないスタッフ」を育てることになってしまうのです。
「ルールではこう書いてありますから、これをやりました」
「教わった通りにやっています」
このように、多くの先生が「それくらい自分で考えてくれよ!」「もっと患者さんのことを考えればやることあるでしょ!?」と憤ってしまうような状況が起こるのも必然ではないでしょうか。
仕組み至上主義は、スタッフの感情と表情を失わせる
客・患者だけでなく、働く人の1人1人にも個別の事情や背景があります。それにも関わらず、サービス的に「マニュアル・規則の逸脱は一切許さない」「画一的にマニュアルで管理する」という姿勢だと、いろいろなことを諦めていきます。
マニュアルによって画一的に管理されることで「自分が大切にしたいこと」が大切にされない状況が起こると、期待を持つことを諦め、感情を消して、言われたこと・指示されたことのみを実行するスタッフとなっていきます。
あるクライアントのルールづくりの事例
例えば、クライアント医院でこんなことがありました。あるスタッフが朝電話をしてきて、「犬が亡くなってしまいました。今日は休ませてください」。
この連絡を受けた幹部は「ルールではどうなっていたっけ?」と迷いながらも休むことを了承しました。後日確認すると、ルール上は「忌引きは二等親以内」と定められているだけで、ペットに関してのルールはありませんでした。
そこで私が訪問した際に、「ルールをどうつくるべきですか?」という相談がありました。
みなさんなら、どうしますか?その医院で一緒に出した結論は、「ルール化はしない」という選択でした。なぜなら、そもそも人によってペットとの関係性は変わるため、ルールで規定するのは難しいためです。
例えば、人生の大半を一緒に過ごしてきて、小さいころには一緒に公園で遊んだり、悲しい時には相談相手にもなってくれたりした愛犬。それと、昨日友達から譲り受けたハムスター。
この両方を同じ括りでルール化できるでしょうか。難しいですよね。また、ペットが亡くなって悲しんでいるスタッフに対して「ルールにないから、それは認められないよ」という決断が下される医院だったら、スタッフはどう感じるでしょうか。
「この職場は、私の大切なものを分かってくれない」と信頼を失うばかりか、「体調不良で休ませてください」と嘘をついて休むということまで生まれてきますよね。
これは極端な例なので、ほとんどの院長先生は有休をとらせたり、休ませるケースが多いはずです。しかし医院経営をしていると様々なイレギュラーなケースがでてきます。
そんな時、それぞれの組織が何を軸にして考えているかによって対応や仕組化の正解は異なります。みなさんは、何を軸に判断・対応しているでしょうか?
ホスピタリティはマニュアル化されない
ホスピタリティは「その場所、その時、その人」に対して個別かつ柔軟に対応されてなされるものなので、マニュアル化のしようがありません。そこには、相手の背景や状況を踏まえたり、そこに至るストーリーや文脈を読んだりする必要があるため、画一的には表現ができないのです。
マニュアルはそれらを読むことができない、読むのが苦手な人のためのもの(最低限のもの)であるという側面もあります。
ホスピタリティ化された医院にするには、マニュアル至上主義となるのではなく「ものごとや状況、事情都合にはいろいろあるよね」というスタンスをもちつつ、組織として柔軟に個別対応することを大切にしていないと実現できません。
マニュアルや規則だけを見た機械的な仕事ではなく、「自分」というものを個別に見てくれているからこそ「心」のつながりを感じることができる。それこそがサービスではできない、ホスピタリティが起こしうることです。
診療にもマネジメントにもホスピタリティを取り入れる
大企業の場合には、対患者、対従業員の両方にホスピタリティ型のマネジメント(個別対応)をするのは至難の業です。組織が大きければ大きいほど、ホスピタリティは難しいものとなります。
しかし、歯科医院ではいかがでしょうか。ほとんどの医院が10人前後、大きい医院でも50人程度の場合が多いでしょう。たとえ100人を超えても中小企業の範囲内です。そのため、多くの企業に比べてホスピタリティ化を目指しやすい組織だと考えています。
「人と人」という面では、対患者さんもスタッフも同じです。もちろん、院長先生も同じ人です。人が人として、つながりを深める。絆を深める。自分の歯科医院のホスピタリティ化を目指すというのは、そういう世界を目指すということです。
ですので、診療においてもマネジメントにおいても、さらにはマーケティングにおいてもホスピタリティを目指していくことは、「人を大切にしたい」「人が幸せな組織をつくりたい」と願う経営者の方には目指す価値があるはずです。
現時点では疑念はたくさんあるでしょうか・・・
- マニュアルはどう取り扱ったらいいのか?
- 患者さんすべてにホスピタリティなんか無理じゃないか?
- スタッフに自由を与えたら無秩序になるのではないか?
- それぞれが勝手な判断で仕事をし始めたら困る
- そもそもセンスがある人じゃないとホスピタリティなんかできないのでは?
- どうしたらホスピタリティ歯科医院をつくるれるのか?
などなど、ここまでの話だけではたくさんの疑念が浮かんできていることと思います。
後編では、マニュアルや規則のことをお伝えしたときによく出るいくつかの疑問にお答えしつつ、ホスピタリティ化を目指す組織がマニュアルやルールをどう取り扱うべきなのかをお伝えします。