歯科医院の自費率が伸び悩む本当の理由|経営OSを見直す

古いシステムから新しいシステムへの転換・突破をイメージ。

自費率を上げたくて、トークスクリプトを整え、カウンセリングの流れを標準化し、スタッフにも研修を受けてもらった。それでも自費率が20〜25%あたりで止まってしまう——。もしそんな実感があるなら、原因はスキルやノウハウではなく、医院経営の「OS(前提となる考え方)」にあるかもしれません。マニュアル型のTC運用には構造的な天井があり、そこを超えるには、施策の追加ではなく土台そのものの入れ替えが必要です。

目次

なぜ自費率は20〜25%で頭打ちになるのか?

歯科医院の自費率が伸び悩む原因として、よく挙がるのは「説明力が足りない」「カウンセリング時間が短い」「患者さんの意識が低い」といった声です。しかし、私がこれまで18年にわたり歯科医院の経営支援に携わる中で見てきたのは、もう少し根深い構造でした。

自費率を上げようとする医院の多くは、まずTC(トリートメントコーディネーター)にトークスクリプトを渡し、カウンセリングの「型」を教えます。初期段階ではこれが功を奏し、自費率は10%台から20%前後へと上がります。ところが、そこから先が伸びない。研修を追加しても、トークを改善しても、20〜25%の壁を越えられないのです。

この壁の正体は「マニュアル型TCの構造的限界」にあります。誰にでも同じ説明をし、同じ流れでカウンセリングを行う方式には、ある段階で必ず打ち止めが来ます。なぜなら、患者さんは一人ひとり違うからです。不安の質も、人生の優先順位も、歯に対する価値観も異なる。そこに画一的な説明を重ねても、ある層には届くが、それ以上の層には届かない。これが天井の正体です。

私たちの養成スクールの17年の経験からしても、自費率が20〜25%で止まっている医院は、かなりの割合でこの「マニュアル型の限界」に直面しています。研修の回数を増やしたり、トークスクリプトを改善したりしても、同じ原理の中で動いている限り、大きな変化は起きません。

「結果から始める」バッドサイクルの罠

自費率が伸び悩むもう一つの背景に、「結果から逆算する思考」があります。目標の自費金額を設定し、それを達成するための行動を組み立て、行動を促すためにマニュアルを整備する。一見すると合理的なこの進め方が、実は医院を追い詰めていきます。

結果を起点にすると、TCの仕事は「いかに契約を取るか」になります。患者さんの話を聴いているようで、頭の中では「どうやってこの人を自費に導くか」を考えている。患者さんはその空気を感じ取ります。「説明は丁寧だったけど、なんとなくセールスっぽかった」——そんな印象が残れば、信頼は生まれません。

私自身、前職のコンサルタント会社でまさにこのアプローチを支援していました。売上目標から逆算して施策を組み、成果が出れば次の施策を追加する。数字は上がるのですが、ある時期から「何かが違う」という感覚が拭えなくなりました。スタッフが疲弊する、主力メンバーが辞めていく、院長自身もどこか満たされない。結果から始めるサイクルは、短期的には機能しても、中長期では関係性を損なうのです。

売上目標を高く掲げるほどスタッフとの溝が深まる。数字は伸びているのに院長自身がどこか満たされない。——そうした経験に心当たりはないでしょうか。

マニュアル型TCとホスピタリティ型TCの違い

ここで、TCの運用を二つのタイプに分けて考えてみます。一つはマニュアル型、もう一つはホスピタリティ型です。両者は「程度の差」ではなく、そもそもの前提——つまりOSが異なります。

マニュアル型TCは「いつでも・どこでも・誰にでも」同じ対応を目指します。トークスクリプトがあり、説明の順番が決まっており、伝えるべき情報が標準化されている。品質を均一に保てるという意味では合理的です。しかし、この方式では患者さんとの間に「説明する人と聞く人」という分離した関係が生まれやすく、TCの仕事は「情報を正確に伝えること」に収斂していきます。

一方、ホスピタリティ型TCは「いま・ここで・この患者さんに」何が最善かを、自分で感じ、考え、判断します。同じ補綴の説明でも、患者さんの表情や言葉の端から不安の質を読み取り、対応を変える。仕事の目的は「契約を取ること」ではなく「この患者さんとの関係をつくること」に置かれます。

マニュアル型TC ホスピタリティ型TC
対応方針 いつでも・誰にでも同じ説明 いま・この患者さんに合わせる
判断基準 スクリプト・マニュアル(他律) 自分で感じ、考える(自律)
仕事の目的 情報を正確に伝え、契約につなげる 患者さんとの信頼関係をつくる
関係性 説明者と聞き手(分離) 支援者と相談相手(非分離)
担い手の実感 「セールスしている感じがする」 「この人の役に立てている」

この違いは微妙なようで、決定的です。マニュアル型では、優秀なTCほど「台本通りに話すこと」に違和感を覚え、やりがいを感じにくくなる傾向があります。私たちの養成スクールでも、受講者から「マニュアルを覚えるほど、患者さんとの距離が遠くなる気がしていた」という声をいただくことがあります。逆に、ホスピタリティ型に転換したTCからは「患者さんの顔が見えるようになった」「仕事に使命感を持てるようになった」という変化が報告されています。

経営の「OS」を入れ替えるとは何か

では、どうすれば自費率の天井を突破できるのか。私は、答えは「施策の改善」ではなく「経営のOSを入れ替えること」にあると考えています。

OSとは、パソコンでいえばWindowsやMacOSにあたるもの——すべてのアプリケーション(施策)が動くための土台です。どんなに良いアプリをインストールしても、OS自体が古ければ正常に動かない。歯科医院の経営も同じで、「サービスの原理」というOSの上にホスピタリティ的な施策を載せても、うまく機能しないのです。

哲学者・山本哲士先生の理論を借りれば、サービスの原理は「いつでも・どこでも・誰にでも」を志向し、効率化・標準化を追求します。一方、ホスピタリティの原理は「いま・ここで・この人に」を志向し、個別の関係性を起点にする。この二つは「程度の差」ではなく「原理が違う」のです。土台が変われば、同じ出来事に対する判断も感情も行為も変わります。そして、結果も変わる。

具体的には、結果からスタートするバッドサイクルに対して、「関係性からスタートするグッドサイクル」への転換です。まず患者さんとの関係を丁寧に築く。すると、スタッフの思考が変わり、行動が変わり、その結果として自費率も変わっていく。これはMIT(マサチューセッツ工科大学)のダニエル・キム教授が提唱した「成功循環モデル」とも重なる考え方で、関係の質が思考の質を高め、行動の質を高め、結果の質を高めるという循環です。

POINT

同じスタッフ、同じ患者層、同じ診療メニューであっても、経営のOS——つまり判断や行動の前提となる考え方が変わると、TCの対応も、患者さんとの関係性も、結果としての自費率も変わっていきます。施策の追加ではなく、土台の入れ替えがブレークスルーの鍵です。

実際に、私たちのホスピタリティTC養成スクールの受講医院では、TC導入から数ヶ月で月間の自費金額が100〜200万円増加した事例が複数あります。しかし、それは「売り方が上手くなった」からではありません。TCが患者さんとの関係を丁寧に築くようになった結果、患者さん自身が「ここで治療を受けたい」と思えるようになった。自費金額とは、言い換えれば「ありがとう」を数値化したものだと私は考えています。

まとめ——自費率の壁は「考え方の壁」

自費率が20〜25%で頭打ちになる原因は、マニュアルの出来不出来ではなく、その土台にある「考え方」にあります。結果から逆算する思考を手放し、まず関係性を起点にする。マニュアルで統一された対応から、一人ひとりの患者さんに向き合う個別の対応へ。この転換は一朝一夕にはいきませんが、OSが変わった医院では、数字だけでなくスタッフのやりがいや院長自身の手応えも確かに変わっていきます。

まずは、自院の経営が「いつでも・誰にでも」を前提にしていないか、静かに点検してみてください。

FAQ

よくある質問

Q マニュアル型TCは完全に否定すべきですか?

いいえ。マニュアルには「基本の型を覚える」「品質の最低ラインを保つ」という大切な役割があります。問題は、マニュアルの枠内に留まり続けることです。型を身につけた上で、目の前の患者さんに合わせて応用できるようになることが、ホスピタリティ型への成長です。

Q 経営のOSを変えると自費率はどのくらい変わりますか?

医院の規模や現状によって異なるため一概には言えませんが、ホスピタリティ型のTC運用を導入した医院で、自費率が30〜50%台に向上した事例があります。ただし、数字の変化は「患者さんとの関係性が変わった結果」であって、目的そのものではありません。

Q 小規模な医院でもOSの入れ替えは可能ですか?

むしろ、スタッフ数が少ない医院のほうが転換しやすい面があります。大規模な組織では全員の考え方を揃えるのに時間がかかりますが、数名のチームなら院長の決断とスタッフとの対話から、比較的早く変化が始まります。

Q 「経営OS」は山本哲士先生の理論用語ですか?

「OS」という表現自体は山本先生の用語ではなく、先生の理論をわかりやすく伝えるための比喩です。山本先生が体系化されたのは「サービスとホスピタリティは原理が異なる」という思想で、そこには哲学と技術の両面があります。本記事では、その考え方の土台を「経営OS」と表現しています。

河合良一

河合 良一一般社団法人日本歯科ホスピタリティ協会 代表理事 / ホスピタリティTC養成スクール代表

歯科医院への経営支援歴18年。ノウハウ提供ではなく、医院ごとのホスピタリティを共に育てる「開発者」。

HOSPITALITY TC SCHOOL

ホスピタリティTC養成スクールのご案内

マニュアルの先へ進みたい方のための講座です。現役トップTCによる実践講座と、ホスピタリティ理論に基づいた「考え方の土台」を学ぶことで、自費率の天井を超える経営のOSをつくります。

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※個々の医院の状況により成果は異なります。本記事は特定の治療効果や売上向上を保証するものではありません。

古いシステムから新しいシステムへの転換・突破をイメージ。

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この記事を書いた人

河合 良一のアバター 河合 良一 ホスピタリティTC養成スクール代表/一般社団法人日本歯科ホスピタリティ協会 代表理事

ホスピタリティTC養成スクール代表/一般社団法人日本歯科ホスピタリティ協会 代表理事|歯科業界で18年。難解なホスピタリティ理論を、現場で使える言葉と技術に翻訳する人|山本哲士のホスピタリティ理論・文化資本論を基盤に、歯科医院にてホスピタリティ開発を行う。

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