小児矯正をどう提案する?TCの伝え方と納得の実践

「椅子の例え」で矯正の必要性を直感的に伝える。小児矯正の提案でTCが使える具体的な伝え方を、TC歴16年の森愛が解説します。タイミング・構成・断られた後のフォローまで。

「お子さんの歯並び、このままだと将来困るかもしれません」——そう伝えたいのに、どう切り出せばいいかわからない。小児矯正の提案に苦手意識を持つTCは少なくありません。小児矯正をわかりやすく提案するには、矯正の「説明」ではなく、お子さんの将来にとっての「価値」を伝えることが出発点になります。TC歴16年の現場経験から、保護者の心に届く伝え方をお話しします。

目次

小児矯正の提案で最も大切なこと——「この子の未来」を考える姿勢

小児矯正の提案において、私が最も大切にしているのはスタンスです。技術的な説明の前に、まず自分がどういう姿勢で保護者に向き合うのか。ここが定まっていないと、どんなに正確な説明をしても届きません。

私がおすすめしているのは、「小児矯正の価値を伝えよう」という姿勢で臨むことです。あくまでも「うちで矯正してほしい」ではなく、「今お子さんにはこんなリスクがあって、今できるこんないい方法がある。このタイミングを逃すことがお子さんにとっての一番の不利益なんです」という気持ちで話す。お子さんのことが絡むと、保護者の目は本当にシビアになります。「この医院が儲けたいだけなんじゃないか」という色が少しでも見えたら、大切な我が子を任せたいとは思えません。逆に、「この人は本当にうちの子の口の中の健康を考えてくれている」と感じてもらえたら、保護者の方の反応はまったく違ってきます。

私自身も矯正治療を経験しているので、「やったら絶対良くなる」と心から思えますし、始めるまでに決断がいったことも身をもって知っています。だからこそ、「お子さんのためを思っている」という姿勢は、言葉ではなく気持ちの持ちようで伝わるのだと実感しています。

「矯正の説明をしなきゃ」「契約につなげなきゃ」——そういう気持ちで臨んでいませんか?その姿勢は、保護者の方に透けて見えてしまいます。まず自分自身の気持ちを確認してみてください。

なぜ小児矯正はタイミングがすべてなのか

小児矯正の提案で、技術的に最も重要なのはタイミングです。早すぎてもいけないし、遅いのはもっと良くない。私の医院では、初めてのパノラマ撮影のタイミングで矯正の提案を行うことが多いです。お子さんの年齢で言えば、5歳から7歳くらい。パノラマを撮ると、まだ生えてきていない永久歯の状態が見えます。保護者の方はこの画像を見て初めて「こんなことになっていたんだ」と気づくケースがほとんどです。

必ずしも初診時に提案するとは限りません。2歳、3歳で初めて来院したお子さんにいきなり矯正の話はしません。そのお子さんが成長し、歯が生えてきて、乳歯の段階で歯並びの予測ができるようになったタイミングを測ります。既存の患者さんがメンテナンスに通う中で提案するケースもよくあります。つまり、タイミングはずっと見ているのです。

小児矯正の提案が成人に比べてしやすい理由があります。成人の場合、矯正はなかなか「しないといけない治療」にならない。今まで困っていないし、費用もかかる。でも小児の場合は、「かわいい我が子がこの先こうなってしまうリスクがあるなら、今のうちに直してあげたい」と、保護者の方が「やらなきゃいけない治療」として受け止めやすい傾向があります。だからこそ、適切なタイミングで必要な情報を届けることが大切なのです。

「椅子の例え」で矯正の必要性を直感的に伝える

パノラマを見せながら説明していくとき、保護者の方には「自然に成長すれば並ぶんじゃないの?」という期待があります。たしかに骨は成長しますが、期待できるのは7番(第二大臼歯)のスペース分くらい。CDE(乳歯の犬歯・第一乳臼歯・第二乳臼歯)があるスペースに3・4・5番の永久歯が並ぼうとしたとき、明らかにスペースが足りないケースが多いのです。

このとき、専門的な説明だけでは保護者の方の頭にすっと入りません。私は「椅子の例え」をよく使います。

「今、3人がけの椅子に5人が座ろうとしています。
ぎゅうぎゅうに押し合って、横向きになったり、はみ出したり。
今なら、この椅子を広げてあげることができるんです」

今の顎の大きさは3人がけの椅子くらいしかないけれど、これから5人(永久歯)が座りたがっている。そのまま放っておくと、みんながぎゅうぎゅう詰めで、ずらしたり横向きにしないと座れない。でも今なら、椅子を広げてあげる——つまり顎を広げてあげる治療ができる。これが拡大と呼ばれる一期治療です。

そして、もしこのまま何もせず大人になってしまったら? もう椅子の大きさは変えられません。座っている人を少しずつスリムにする(削って被せる)か、座る人の数を減らす(抜歯矯正)か。そういう選択になってくるんですよ、とお伝えします。

「椅子」という身近なものに例えることで、保護者の方は直感的に状況を理解してくれます。花壇に例えて話す方もいます。大切なのは、専門用語を並べるのではなく、「この子の口の中で今何が起きていて、何ができるのか」を保護者の方の日常にある言葉で伝えることです。

保護者の納得をつくるコンサルの構成とは?

小児矯正の提案には、一つの構成の流れがあります。私の医院では、以下の順番でお話ししています。

まず、「今後予測される問題」を伝えます。パノラマを見せながら、今の状態からこのままいくとどんなリスクがあるか。あくまでも「こういう可能性がありますよ」という形で伝えます。次に、歯並びが悪いことのリスクを丁寧に話します。見た目だけでなく、歯が正しい位置で正しい角度で噛めていないと、特定の歯に過剰な負担がかかり、将来の虫歯や歯周病のリスクが高まること。正しく噛める状態がどれだけ大切かということ。そして、「今できることがある」という話に進みます。ここでさきほどの椅子の例えを使い、一期治療でできることを具体的に伝えます。

ここで大切なのは、一期治療の役割を正直に伝えることです。「一期治療で歯並びが良くなります」とは言いません。今できるのは顎を広げてあげること、正しい位置に誘導してあげること、悪い癖を取ること。歯を並べる治療ではない、ということは明確にお伝えします。一期治療だけで100点にはならないかもしれない。でも、このまま何もしなければ30点や40点だった歯並びが、60点や70点のところまで持っていける可能性はある。もし100点を目指すなら、将来的に二期治療(成人矯正)も視野に入れていただく必要がある。一期をやったから二期が不要になるとは限らないが、一期をやることで二期が楽になったり、抜歯の可能性を減らせたりする。こうした情報を誠実にお伝えすることが、保護者の方の信頼につながります。

この構成の中で、上の3つ——現状、リスク、今できること——はドクターが話してくれると、保護者の方への響き方がまったく違います。5分、10分でもドクターがチェアサイドで話してくれたら、そこからTCがバトンタッチして料金や流れの説明を行うという連携が非常に効果的です。

POINT

小児矯正の提案では「歯並びを良くする」ではなく「お子さんの将来の選択肢を広げる」という視点で伝える。一期治療でできること・できないことを正直に話すことが、保護者の信頼の土台になります。

「今はしない」と言われたとき——説得ではなく種まきを

小児矯正の提案をしても、その場で「やります」とならないケースは当然あります。費用のこと、転勤の可能性、抜歯を伴うかどうか——保護者の方が悩むポイントはさまざまです。

ここで大切にしているのは、「しない」という選択をきちんと受け入れることです。「いやでもね」と食い下がるような説得は絶対にしません。保護者の方がしないと決めたなら、その判断を尊重した上で、「それでは今の状態でできるだけ歯を守っていく方向で考えましょう」と、治療の話に自然に移行します。

ただし、種は確実に蒔けています。提案したときにお伝えした情報——歯並びのリスク、今できること、タイミングの大切さ——は、保護者の方の中に残ります。その後、メンテナンスで通い続ける中で、実際に永久歯が生えてきてガタつきが出始めたとき、「やっぱり予告通りになってきましたね」という声かけから、もう一度矯正の話ができることがあります。そのときには経済状況が変わっているかもしれませんし、お子さんの状態を目の当たりにして気持ちが変わることもあります。

さらに言えば、二人目、三人目のお子さんのときに「上の子のとき聞いた話」として矯正を検討される方もいますし、ママ友に情報を伝えてくださることもあります。だからこそ、その場で成果にならなくても、丁寧に情報提供すること自体に大きな価値があるのです。

ただし一つ、気をつけてほしいのはリミットを伝えることです。「いつまでに決めていただいた方がいいと思います」という時期の目安をお伝えしておかないと、忙しい日常の中であっという間に1年が経ってしまいます。こちら側もメンテナンスの際にきちんとフォローの声かけをしていく。タイミングを逃すことが誰にとっても一番の損失ですから、その管理はTCとしての大切な役割です。

まとめ

小児矯正の提案は、「矯正を売る」ことではありません。お子さんの将来の選択肢を一つでも広げるために、今この保護者の方に必要な情報を届けること。そして、その判断を尊重しながら、タイミングを逃さずフォローしていくこと。提案の根底にあるのは、「いま、ここで、この子のために」という姿勢です。成人矯正の提案にも通じる考え方ですが、まずは小児矯正の現場から、この姿勢を試してみてください。

FAQ

よくある質問

Q 小児矯正の提案は何歳くらいから行うのがよいですか?

パノラマ撮影ができるようになる5〜7歳頃が一つの目安です。パノラマで永久歯の状態を確認した上で提案を行います。ただし、4歳や5歳の時点で歯並びの予測ができていれば、早めに予告しておき、適切なタイミングで改めて提案するという方法もあります。

Q 保護者に「まだ早いのでは」と言われたらどう対応しますか?

その気持ちはしっかりと受け止めた上で、一期治療で顎を広げられる時期には限りがあることをお伝えします。無理に説得する必要はありません。まだ永久歯が生え揃っていない段階であれば、次のメンテナンス時にもう一度状態を確認しましょうとお伝えし、タイミングを見てフォローしていきます。

Q 一期治療で歯並びが完全に治ると伝えてもよいですか?

一期治療で100点の仕上がりを保証することは避けましょう。お子さんの状態によっては一期治療だけで十分な結果が得られることもありますが、二期治療が必要になるケースもあります。「一期で何ができて、何ができないか」を正直にお伝えすることが、保護者の方との信頼関係の土台になります。

Q 矯正の説明はTCがすべて行うべきですか?

理想的には、現状・リスク・今できることの3点はドクターがチェアサイドで話し、その後の料金や流れの説明をTCがバトンタッチで行う形が効果的です。ドクターが5〜10分でも時間を作って話してくれると、保護者の方への響き方がまったく変わります。

森 愛

森 愛ホスピタリティTC養成スクール パートナー講師 / 医療法人キープトゥース 塚口むらうち歯科・矯正歯科 GM・TC

TC歴16年。歯科助手から現職へ。現場に立ち続けながら、「考え方」と「実践」の両方を自分の言葉で伝える。

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※個々の医院の状況により成果は異なります。本記事は特定の治療効果を保証するものではありません。

「椅子の例え」で矯正の必要性を直感的に伝える。小児矯正の提案でTCが使える具体的な伝え方を、TC歴16年の森愛が解説します。タイミング・構成・断られた後のフォローまで。

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この記事を書いた人

森 愛のアバター 森 愛 医療法人キープトゥース 塚口むらうち歯科・矯正歯科 GM/TC

ホスピタリティTC養成スクール・パートナー講師|TC歴16年、現在も臨床現場に立つ現役TC。医院の中核として全顎症例のコンサル、矯正コンサルまで担当。未経験DAから成長してトップTCになる。考え方と技術を正しく学べば、誰でもTCになれる。森自身が、その証明です。

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