TC未経験から始める初診コンサルの基本

朝の柔らかい光が差し込む廊下やドアが開いた瞬間。「最初の一歩を踏み出す」というメタファー。

初診の患者さんが来院した。問診票を受け取って、チェアに案内して、ドクターが診察する。多くの歯科医院では、それが当たり前の流れになっています。

でも、もしその「当たり前」の手前に、たった20分の時間を設けるだけで、患者さんの納得感も、治療計画の質も、その後の関係性も大きく変わるとしたら。

TC未経験の方にとって、「初診コンサル」はハードルが高く感じるかもしれません。何を話せばいいのか、どこまで踏み込んでいいのか、そもそも自分にできるのか。

TC歴16年、歯科助手からスタートして現在はゼネラルマネージャーとして法人全体の運営を担う森愛が、未経験者でも始められる初診コンサルの基本的な考え方と流れをお伝えします。

目次

初診コンサルの目的は「主訴を聞くこと」ではない

初診コンサルの目的は何ですか、と聞かれると、「主訴を聞くため」「患者さんのことを知るため」「医院の方針を伝えるため」という答えが返ってくることが多いです。

どれも間違ってはいません。ただ、それらはすべて「手段」であって「目的」ではありません。

私が講座の中でいつもお伝えしているのは、「初診コンサルが終わったとき、患者さんにどういう状態になっていてほしいか」を先に考えましょう、ということです。

たとえば、私がつくりたい状態はこうです。コンサルが終わったときに、「この医院は今まで行ってきたところと全然違うな」「信頼できそう」「私の悩みを解決してくれそう」「ちょっとしっかり通ってみようかな」。もっと言えば、この後の検査やドクターの診察が「ちょっと楽しみ」くらいのテンションになってほしい。

ドクターに「熱々の状態」で患者さんを送るんです。そうすると、ドクターの診察もスムーズになるし、患者さんの納得感もつくりやすくなります。

この「つくりたい状態」を持っているかどうかで、コンサル中のコミュニケーションの角度が変わります。ゴールが見えている人と見えていない人では、同じ会話をしていても、質問の選び方も、言葉の使い方も、自然と違ってくるのです。

ドクターに「熱々の状態」で患者さんを送る。
それが初診コンサルのゴールです。

なぜ「部分最適」ではなく「全体最適」を目指すのか

多くの歯科医院では、患者さんが「ここが痛い」と言えば、その歯を診て、その歯の治療方針を決める、という流れで診療が進んでいきます。1本ずつ治療方針が都度決定される対応、これを「部分最適」と呼んでいます。

一方、「全体最適」というのは、口腔内全体を検査して、全顎的に治療計画を立てて、全体として最適な治療を進めていくやり方です。

部分最適にもメリットはあります。治療の決定と完了が早い。短期的には患者さんの満足度も高い。1本ずつなので提案の単価が低く、患者さんも決断しやすい。チェアサイドで簡単に説明できるから時間もかからない。

ただ、よく見てみると、これらのメリットはほとんどが「医院側にとって都合がいい」という視点でのメリットなんです。患者さんが全体最適という選択肢を知った上で部分最適を選んでいるならいい。でも、全体最適の提案すらせずに部分最適しか知らない状態で進めているとしたら、それはちょっと不親切ではないでしょうか。

全体最適を行うと、患者さんには大きなメリットがあります。口の中全体を見てもらえるという、多くの方が経験したことのない体験ができる。全体のバランスに配慮したオーダーメイドの治療提案を受けられる。長期的に見たときのタイムパフォーマンスもコストパフォーマンスもいい。そして何より、総合的な判断で治療を決定できるから、納得感が高いのです。

全体検査をして初めて、その「歯」ではなく「人」を見ることができる。生活背景も見えてくる。そうなると、治療計画そのものの質がまるで変わってきます。

初診コンサルから全体最適への流れ|まず何をするか

全体最適の治療を進めるには、当然ですが全体的な検査が必要です。そして全体検査に進んでもらうためには、その意味を患者さんに理解していただく必要があります。ただ、患者さんは部分最適での治療しか受けたことがない方がほとんどですから、「全体を検査しましょう」と言われても、なぜそれが必要なのかがわからない。

ここが初診コンサルの出番です。

初診コンサルの流れは、大きく「聞く(フェーズ1)」と「伝える(フェーズ2)」に分かれます。

フェーズ1:聞く

患者さんの話をしっかり聞くパートです。ここで大切なのは、「主訴」と「要望」は違うということ。「銀歯が取れました」は主訴です。でもそこから先、「痛いのを治したい」のか「そのまま付けてほしい」のか「他にも虫歯がないか見てほしい」のか。それは主訴の先にある「要望」であって、こちらから質問して聞き取らないと出てきません。

患者さんの話をしっかり聞いて、コップを上に向けてから、フェーズ2で注ぐ。いきなり注いでも、入ってこないのです。

フェーズ2:伝える

医院の診療方針や検査の流れを伝えます。私たちが使っている構成はこうです。まず、医院のコンセプトを伝える。次に、「痛い時だけ歯医者に来る」という従来のパターンが歯を失う原因になっていることを問題提起する。そして解決策として、詳しい検査、治療計画の立案、リスク管理という3つの取り組みを提案する。

この流れを丁寧にお伝えした上で、「こちらの流れで進めさせていただいて大丈夫ですか?」と確認します。ここで顔が曇る方には、無理強いはしません。「とりあえず困っているところだけ」という道も用意してあります。

大切なのは、全体最適という選択肢があることを知っていただくこと。選ぶのは患者さん自身です。

患者さんの「ブレーカー」に気づけるか

初診コンサルで「つくりたい状態」を設計しても、思い通りにいかないことは当然あります。なぜなら、患者さんにはそれぞれの価値観や生きてきた経験、思い込みがあって、それがこちらの意図を「遮断」してくるからです。

私はこの遮断要因を「ブレーカー」と呼んでいます。ブレーカーが落ちたら電気は通らない。私たちは電気を通すように、つくりたい状態に向かって進みたいのに、途中でブレーカーが落ちてしまうことがあるのです。

たとえば、予約の電話の段階で発生する「自分が大事にされていないんじゃないかブレーカー」。予約が空いていないとき、「その日はないです」で終わるのと、「その日のその時間は空いていないのですが、ここだったら空いていますけどどうですか?」と代替案を出すのとでは、患者さんの受け取り方がまるで違います。

コンサルルームへの案内でも、ブレーカーは落ちやすい。ほとんどの患者さんは「今から診察室に入れる」と思って待っています。なのに別の部屋に案内されて、知らない人が対面に座っている。患者さんからすれば「想定外の動き」をさせられている状態です。ここで不安や警戒心のブレーカーが落ちます。

これを防ぐために私がやっているのは、とにかく笑顔で迎えること。マスクをしているので、「目で笑う」んです。イメージは、待ち合わせ場所で友達を見つけたときの感じ。「あ、おった!」という顔。そして「ちょっとお話を先に伺わせていただくんですけど、この後診察室にもご案内しますので」と、必ず「この後診察がある」ということを伝えてから始めます。

POINT

「なんかうまくいかないな」と感じたときは、「この人は変だから伝わらない」ではなく、「なんかブレーカーが落ちているな」と考えてみてください。そのブレーカーがどこで落ちたのかを見つけられれば、上げてあげることもできるのです。

TC未経験者が最初に取り組むべきことは?

ここまで読んで、「自分にもできるだろうか」と感じた方もいると思います。

私自身、歯科業界は完全に未経験で入りました。歯科助手スタートです。入社した理由も「家から近いし、歯医者さんのお姉さんってなんか綺麗なイメージあるし」くらいのものでした。院長と言い合いはよくするし、いつでも辞めてやるって思ってた時期もあるし、患者さんとも喧嘩しかけたこともあります。そもそも意識が高いスタッフでは全然なかった。

それでも16年続けてこられたのは、いくつかの転機があったからです。先輩が退職して自分が次のポジションに立つことになった。期待されて責任を任されると、やらないといけないという気持ちが芽生えた。セミナーに通い、勉強会に参加し、カウンセリングのスタイルを意図的に変えた。自分の変化で患者さんとの関係性も変わった。

そしてホスピタリティの考え方に出会ったとき、自分がなんとなくうまくいっていた理由を初めて言語化できました。それまで感覚でやっていたことに再現性を持たせられるようになった。

だからこそ、最初から完璧を求める必要はありません。まずやってほしいのは、「今の自分の医院では、初診からメンテナンスまでの流れがどうなっているか」を書き出してみることです。部分最適でやっているのか、全体最適でやっているのか。どこにコンサルが入っていて、どこに入っていないのか。それを見える化するだけで、課題が見えてきます。

そしてもう一つ、「真似」から始めることをお勧めします。何もないところからオリジナルで組み立てようとすると、時間がかかるし、失敗も避けられない。うまくいっている人のやり方を、意図ごと真似する。最初はそれでいいのです。やってみて、ちょっとうまくいかない部分があれば修正していく。「なぜそれをするのか」という意図とセットで真似をすることが、一番効率的な成長の方法だと私は考えています。

初診コンサルは、患者さんとの関係をつくる「最初の種まき」です。ここで丁寧に種をまくことで、その後の検査、治療計画、セカンドコンサル、そしてメンテナンスまで、すべてが変わっていきます。

FAQ

よくある質問

Q 初診コンサルには何分くらいかかりますか?

目安は20分前後です。フェーズ1(聞く)に7分程度、フェーズ2(伝える)に5分程度、そのほか案内や確認の時間を含めた設計です。最初は時間が前後しても構いません。慣れてくると自然にペースがつかめるようになります。

Q 歯科の知識がなくても初診コンサルはできますか?

初診コンサルの主な役割は、患者さんの話を聞き、医院の方針を伝えることです。高度な専門知識がなくても始められます。わからない質問をされたら「ドクターに確認して、お伝えしますね」と正直に答えれば大丈夫です。知識は実務と並行して身につけていけます。

Q カウンセリングルームがない場合はどうすればいいですか?

カウンセリングルームがなくても、TCの仕事は始められます。チェアサイドでも、患者さんとの距離感や位置関係に配慮すればコンサルは可能です。大切なのは「場所」ではなく、患者さんと向き合う「姿勢」です。

Q 患者さんが全体検査を拒否した場合はどうしますか?

無理強いはしません。「とりあえず困っているところだけ」という選択肢も用意しておきます。大切なのは全体最適という選択肢があることを知っていただくこと。選ぶのは患者さん自身であり、その判断を尊重することがホスピタリティの姿勢です。

森 愛

森 愛ホスピタリティTC養成スクール パートナー講師 / 医療法人キープトゥース 塚口むらうち歯科・矯正歯科 GM・TC

TC歴16年。歯科助手から現職へ。現場に立ち続けながら、「考え方」と「実践」の両方を自分の言葉で伝える。

HOSPITALITY TC SCHOOL

ホスピタリティTC養成スクールのご案内

ホスピタリティTCスクールでは、この初診コンサルの「あり方」から「やり方」まで、ロールプレイングやフィードバックを交えながら実践的にお伝えしています。TC未経験者も多数受講されている、現場に直結する講座です。

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※個々の医院の状況により成果は異なります。本記事は特定の治療効果を保証するものではありません。

朝の柔らかい光が差し込む廊下やドアが開いた瞬間。「最初の一歩を踏み出す」というメタファー。

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この記事を書いた人

森 愛のアバター 森 愛 医療法人キープトゥース 塚口むらうち歯科・矯正歯科 GM/TC

ホスピタリティTC養成スクール・パートナー講師|TC歴16年、現在も臨床現場に立つ現役TC。医院の中核として全顎症例のコンサル、矯正コンサルまで担当。未経験DAから成長してトップTCになる。考え方と技術を正しく学べば、誰でもTCになれる。森自身が、その証明です。

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