「TCに任命されたけれど、何から始めればいいのか分からない」——そんな不安を抱えていませんか。歯科TCの1年目に大切なのは、テクニックを覚えることではなく、「患者さんの言葉で話せる自分をつくる」ための土台づくりです。私はTC歴20年、これまで3万人以上の患者さんと向き合ってきましたが、今振り返っても、最初の1年間で実践した3つのことが、その後のすべてを支えてくれたと感じています。この記事では、私が初動の1年で実際に何をしたのか、なぜそうしたのか、その実践記録をお伝えします。
歯科TC1年目の勉強法①|患者さん向けの歯科雑誌を丸暗記した
TCに任命された当時、私には歯科の知識がほとんどありませんでした。もともと介護福祉士として特別養護老人ホームで働いていて、歯科業界には縁もゆかりもなかったのです。治療経験すらほとんどなく、虫歯もない。そんな状態でカウンセリングルームに座ることになりました。
知識がないなら学ぶしかない。ただ、私が選んだ教材は歯科の専門書ではありませんでした。「nico」という患者さん向けの歯科雑誌です。この雑誌を毎月、丸暗記しました。
なぜ専門書ではなく患者さん向けの雑誌だったのか。それは、TCの仕事が「専門家として正しいことを言う」ことではなく、「患者さんが理解できる言葉で伝える」ことだと直感したからです。患者さん向けの雑誌は、難しい治療内容を噛み砕いて、分かりやすい言葉で説明しています。これをそのまま自分の語彙にすれば、患者さんと同じ目線で話ができるようになる。実際にその通りでした。
しかも、雑誌にはQ&Aのコーナーがありました。患者さんから実際に寄せられた質問と、その回答が掲載されている。この質問コーナーの内容を把握しておくと、カウンセリングルームで患者さんから聞かれることのほとんどに、即座に答えられるようになりました。知識のない患者さんが抱く疑問は、驚くほど共通しているのです。
同時に、自分の中でルールを決めました。「今日の分からないことを、明日に持ち越さない」。質問されて答えられなかったことを曖昧に返すのではなく、「院長に確認してきますね」と堂々と席を立つ。そのスピード感と潔さが、むしろ患者さんの信頼につながりました。ある患者さんからは「中村さんに聞けば、聞きにくいことも先生にうまく聞いてきてくれるからありがたい」と言っていただいたことがあります。分からないことを隠そうとせず、すぐ確認する姿勢が、逆に安心感を生んでいたのです。
POINT
コンサルの致命的なスイッチは、患者さんの「分からない」を入れてしまうこと。専門用語を使った瞬間、患者さんの脳は不快のゾーンに入り、どれだけ正しい説明をしても記憶に残らなくなります。だからこそ、患者さんの言葉で話せる力が必要なのです。
歯科TC1年目の勉強法②|院長の説明をレコーダーで全録音して書き起こした
患者さん向け雑誌の丸暗記と並行して、もうひとつ徹底したことがあります。院長が患者さんに説明している内容を、背後からレコーダーで全て録音し、一言一句を書き起こして覚えたのです。
TCにとって最もあってはならないことは、ドクターの治療方針とTCの説明に食い違いが出てしまうことです。自分では同じことを言っているつもりでも、言葉のニュアンスが少しずれるだけで、患者さんには違う内容に聞こえてしまう。「さっき先生はこう言ってましたけど」——この一言で、それまで築いてきた信頼が一瞬で崩れます。
私の勤めるスマイル歯科は、院長である山村義明の歯科医院です。私は山村院長の頭の中を、言葉として完全に一致させることこそがTCを極める第一歩だと考えました。だから、院長の説明方法、使う言葉、話の順序、声のトーンまで、すべてを書き起こして自分のものにしていったのです。
今になってみれば、話し方も仕草も、院長のそれをかなり受け継いでいるなと自分でも感じます。ただそれは「コピーする」のが目的だったわけではありません。院長の治療への思いや方針を深く理解した上で、患者さんに分かりやすく噛み砕いて伝えること。院長の言葉をそのまま暗唱するのではなく、自分の言葉に変換できるだけの理解を得ること。それが録音・書き起こしの本質でした。
現在は勤務医の先生が8名いらっしゃいますので、一人ひとりの先生の治療方針と向き合いながら、それぞれの思いを患者さんに伝えるすり合わせを日々行っています。組織に属している以上、トップの方針に寄せていく努力は不可欠です。患者さんにとって院長は最も信頼のおける存在ですから、そこと食い違う説明は、チーム全体の信用を下げてしまうことになります。
院長の頭の中と、自分の言葉を一致させること。
それがTCを極める第一歩だと考えました。
歯科TC1年目の勉強法③|日々の記録を取り続けた
3つ目に徹底したのが、日々の記録です。コンサルがうまくいったこと、いかなかったこと、患者さんから言われた言葉、自分が感じたこと。それをノートに日記のように書き残していきました。
反省点ばかりを書くのではありません。うまくできたこと、患者さんに褒めていただいたことも、きちんと記録していきました。自分を褒めてあげることも、成長には大切なプロセスです。
記録を取ることの価値は、時間が経ってから分かります。ある勉強会で何気なくこの記録ノートの話をしたところ、出版社の方が興味を持ってくださり、その内容が本のエピソードのひとつとして出版されました。10数年前の記録ですが、当時の私はこんなことを書いていました。「日々100人近くの患者様の対応をして、一人ひとりの患者様を覚えるのは難しいかもしれない。しかし、私たちにとって何百人の中の一人であっても、その患者様にとって私はたった一人の存在なのだ」と。
記録は今の自分のためだけではなく、未来の自分への応援メッセージになります。毎日の振り返りがなければ、明日の成長はありません。私はホスピタリティTC養成スクールの受講者の皆さんにも、日々のコンサル記録を書くことをお勧めしています。自分だけのオリジナル参考書が、必ず自分を支えてくれるからです。
なぜ「あり方」が先で「やり方」は後なのか
ここまでお伝えした3つの実践——雑誌の丸暗記、院長の説明の書き起こし、日々の記録。どれも特別な才能は必要ありませんし、今日から誰でも始められることです。
ただ、大切なのは「何をやるか」の前に「なぜやるのか」を自分の中に持つことだと思います。私がこれらを続けられたのは、「患者さんの不安を不満に変えてしまう前に、自分が動きたい」という思いがあったからです。
歯科医院にとって、チェアは患者さんが最も緊張する場所です。後ろから近づいてくるドクター、専門的な言葉、先の見えない治療計画。患者さんは不快のゾーンの中にいます。脳科学的にも、不快のスイッチが入っている状態では、どれだけ正しい説明をしても良い記憶としてインプットされないことが分かっています。だからこそ、TCが患者さんの不安を受け止め、分かりやすい言葉で伝え直すことに意味がある。ドクターの説明が間違っているからではなく、患者さんが受け取れる状態をつくるのがTCの仕事なのです。
TCの仕事は「説明する人」ではありません。患者さんの不安や迷いを受け取って、チームにつなぐ架け橋です。その架け橋になるために、まず自分の土台をしっかりつくる。初動の1年は、まさにその土台づくりの期間だと私は考えています。
あなたは今、自分の言葉で患者さんに説明できていますか? 院長の治療方針を、自分の中に落とし込めていますか? もし少しでも不安を感じるなら、今日からでも始められることがあるはずです。
まとめ
TCの初動1年でやるべきことは、華やかなテクニックの習得ではありません。患者さんの言葉で話せるようになること、院長の方針と自分の言葉を一致させること、そして日々の実践を記録して振り返ること。この3つの地道な積み重ねが、その後の20年間の土台になりました。どれも今日から始められることです。まずはひとつ、自分に合いそうなものから試してみてください。
FAQ
Q 歯科の知識がまったくないのですが、TCになれますか?
私自身、介護福祉士から歯科業界に転職した経験があります。歯科の知識はゼロからのスタートでした。大切なのは最初から全て知っていることではなく、「分からないことを翌日に持ち越さない」姿勢で毎日ひとつずつ積み上げていくことです。
Q 院長の説明を録音するのは、実際にやってもいいのでしょうか?
必ず院長の許可を得た上で行ってください。目的は「院長の治療方針と自分の説明を一致させること」であり、院長への信頼が前提です。方針を理解したいという姿勢で相談すれば、協力してくださる先生がほとんどです。今はAI文字起こしツールもありますので、当時より格段にやりやすくなっています。
Q TCの1年目で特に意識すべきことは何ですか?
患者さんの「分からない」スイッチを入れないことです。専門用語を使わず、患者さんが日常で使う言葉に置き換えて伝える力を磨くこと。それが信頼関係の第一歩になります。
Q 日々の記録は何を書けばいいですか?
うまくいったこと、いかなかったこと、患者さんから言われた言葉、自分が感じたこと。短くて構いません。反省点だけでなく、自分を褒められるポイントも書くことが大切です。日々の記録が、未来の自分にとってかけがえのない参考書になります。
中村 綾ホスピタリティTC養成スクール パートナー講師 / 医療法人翠章会 すまいる歯科 統括副院長・TC
TC歴20年、対応患者数3万人超。介護職から歯科に転身し、現場で積み上げた「聴く力」で信頼を築き続けている。
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※個々の医院の状況により成果は異なります。本記事は特定の治療効果を保証するものではありません。


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