こんにちは!日本歯科ホスピタリティ協会の河合です。
前回の記事では、サービスは相手の世界を無視する。ホスピタリティは相手と自分の世界の調和的関係性を目指す、という違いをご紹介しました。
※この記事は以下の表の⑦の項目です。
調和的関係性の創造、つまり「相手のハッピーが自分のハッピー。相手も自分も嬉しい」という想いが一致した世界を目指しませんか?ということでした。
今回の記事では、この「相手の世界」とどう調和を取るために必要な部分について少し掘り下げて考えてみたいと思います。
サービス=個別の顔、感情、事情都合は見ない
サービスでは客を個人ではなく、客という一般化したもので捉えます。客を「個」として認識しないというのを「顔を見ない」と表現しています。
また、顔はいろいろなものを表現します。感情が現れているかもしれません。その表情からその人の背景や事情が読み取れるかもしれません。
しかしサービスではそんなものは見ない方が効率が良いため、見ません。見ないことが当たり前になるので見えなくなります。
そして客は「自分は個人としてではなく客として扱われている」「個人として大切に扱われてはいない」ということを敏感に察知します。
この構図は、もちろん歯科医院の患者さんでも全く同じことが起こります。
ホスピタリティ=顔を見て、感情・事情・都合を読み取ろうとする
「相手も自分もハッピー」という調和を目指すには、「相手の世界」をなんとか読み取ろうとする姿勢が必要です。「相手の世界」とは、平たく言うとその人の感情や背景(事情都合)です。
これらは目に見えないものなので、正確に読み取ることは難しいのですが、まず大切なのは「読み取ろうとする」という姿勢です。
客・患者さんは人であり人には誰しも感情や事情都合がある、という当たり前のことを前提として仕事をすることが、最初のスタートです。
卓越したコンシェルジュならできるが・・・
相手の世界を読み取るには、まずその相手の情報を得る必要があります。つまり、相手のことを「知る」必要があります。相手のことを何も知らないと、他の客と同列で対応するしかありません。
ホテルや飲食店など一見のお客さんが多い場所では、その場で瞬時に相手の世界を読み取ることが求められます。
ホスピタリティに優れている卓越したコンシェルジュは、客がホテルに入ったその時から服装や靴、会話している雰囲気、家族構成などを五感と過去の経験・知識を総動員して情報収集することから相手の世界を見極め、それに基づいて観光案内やレストランをご案内するといった対応をしているそうです。
繰り返し宿泊している客には、情報の積み重ねがあるためその精度はさらに上がります。
これは経験のあるスタッフでも相当難しいようで、一般的にホスピタリティが優れているとされているホテルや店でも初見の方にはサービスとしての「おもてなし」に留まってしまいがちです。
飲食店でも同様に難しいものです。経験と権限があり、かつ気が利く人は初見の客に対しても柔軟に個別に対応することができるでしょうが、かなり属人的なものです。
ただ飲食店でも小規模な居酒屋の店主は、経験も権限もあるため個別対応をしてくれがちです。メニューにないツマミを酒に合わせて出してくれるなどはホスピタリティを感じます。
ただ、いちスタッフが判断するのは経験や知識に加えて、職場環境が許さないと難しいものです。
歯科医院はホスピタリティを実践しやすい
対して歯科医院の場合には、リピートしてくれることがほぼ確定しています。知る機会を多く得られます。しかもカウンセリングなど話をゆっくりと聞く機会を作りやすいため、「知る」ということを非常にしやすい業種です。
ホスピタリティ原論の著者・山本先生は、医療のホスピタリティは難しいと話していたことがあるそうです。たしかに、医療業界全体は様々な利権構造や制度上の問題があり相当難しいなと感じています。
ただ、歯科医院は医療の中だけでなく、様々な業種の中でもかなりホスピタリティ化しやすい業態であると考えています。
卓越したコンシェルジュのような存在を育てるのは至難だとしても、医院としての総合力でホスピタリティを実践する形態が適しているのではないでしょうか。
歯科医院で相手の世界を知る
歯科医院の場合には、まずは来院した背景について知ることがファーストステップです。
歯医者には痛いとか、何らかの症状があって来院する方がほとんどです。そして、その背景には人それぞれ何かがあるはずです。
仕事に支障が出ている、転勤前で早く治したい、受験が控えている、などなど人それぞれにそのタイミングで来院した事情があります。
既に歯科医院では、初診時のカウンセリングでこの今回の来院の背景を知る目的で行っている歯科医院も多いことと思います。最低限、ここは抑えておきたいところですね。
感情にフォーカスを当てる
次のステップとして、「感情」を読み取ろうとする姿勢を持ってみてください。人によって様々な感情があります。それを表情や話し方などから読み取ろうとするのです。例えば初診カウンセリングの場合だと、
- 来院背景を語ってくれている今の感情は?
- 痛くて困っていたときの感情は?
- 歯医者に行こうと決めた時の感情は?
- 来院した時の感情は?
などなど、どんな気持ちを感じているのか、これまで感じていたのかに、まず興味を持つということです。
もちろん、感情にフォーカスすべきなのは初診カウンセリング時だけではありません。本来は全職種が常に気にしている必要があるものです。
- ドクターと初対面の今の気持ちは?
- SRPが続いている今の気持ちは?自宅では?
- 根治が続いている今の感情は?
- 予約時間が押してしまった今の感情は?
- 治療が終わって会計している時の今の気持ちは?
あらゆるプロセスで人には感情があります。感情にフォーカスをして仕事をみんながするようになっていくと、かなり患者さんの「顔」が見えてきます。
「忙しくて、いちいち気にしている暇はない!」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、少しずつでも気にすることを増やす意図、かなりの割合の患者さんに対して意識できるようになります。
苦手な方は、これまでよりも患者さんの感情にフォーカスを当てて、気遣った声をかけることから初めて見るとよいでしょう。
これまでの悩みの体験と歴史を知る
症状が重い方ほど、様々な苦しみと経験、そこにあった辛い感情があるものです。本来はそこまで踏み込んでヒアリングができると良いですね。
ちょっとした「過去の歯医者で嫌だったことは?」などの過去の体験であれば難しくはないですが、悩みが深ければ深いほど聞く人の技術が必要になってきます。
これをかなり丁寧に実践している歯科医師の先生になると、そこまで深く聞かないと治療計画が立てられないし、提案もできないという方もいらっしゃいます。
ドクターでも難しい領域なのですが、スタッフでもTCとして習熟を目指すならこの水準を目指すべきではないでしょうか。
口腔内の歴史を見抜く
クライアントの医院のある先生は「口腔内を見れば、その人の歴史が分かる」と言います。
レントゲン写真から、いつ頃・どのような経緯で歯が悪くなってきたのか、そしてこのままだと今後どんな口腔内になるのか分かるそうです。
木原先生という方の勉強会で数年がかりで学んだそうなのですが、非常に素晴らしい技術ですよね。まさにプロフェッショナルの技だと思います。
口腔内の歴史が分かると、その人がどんな苦しみを味わってきたか、どんな不便さに悩まされて来たかもさらに想像がつきやすくなります。未来が見通せれば、それを防ぐための提案ができます。
口腔内の歴史、そして体験としての人生の歴史の両面からその人を知ることができるほど、よりその人にとってベストな歯医者体験を提供できる可能性が高まりますよね。
プライベートコミュニケーションが必要という意味
よく歯医者では、新人さんが入ると「患者さんと話しなさい」「プライベートな会話をしましょう」と教えることが多いと思います。
たしかに大切なのですが、その意味をしっかりと伝えることができている歯科医院は少ないように思います。
そのためスタッフは、「お待たせする時間をつなぐため」「安心してもらうため」くらいの認識で会話をしていることがあります。
もちろん安心してもらうというのは大切な要素です。ただそれ以上に大切なのは、患者さんのことをもっと「知る」ということではないでしょうか。
患者さんのことを、プライベートな情報まで含めて知れば知るほど、治療計画にも、その提案にも活かすことができます。メンテナンスプランも変わってくるかもしれません。
新人では難しいですが、経験のあるスタッフだと意味が分かると会話の質が変わってきます。
マーケティング目線ではなく、相手のために
少し話は逸れますが、このように医院の取り組みの目的の転倒には要注意です。
プライベートコミュニケーションや初診カウンセリングなどの必要性として、患者に親近感を持ってもらって中断しないようにする。満足度を上げて口コミを増やす。自費売上を増やす、などのマーケティング目線で語られることが多いように感じます。
これは、全て自分の目線ですよね。ホスピタリティ的に言うと自分都合(主語的)であるということになります。
これらはただ結果としてあるだけで、目的として語ると転倒します。
どんな目的を持って行うかで、患者さんに伝わるものやスタッフの実践意欲が大きく変わってきますので、丁寧に考えてから取り組んでみてください。
スタッフマネジメントでも同じ視点
ホスピタリティの「個別に顔を見て、感情や相手の事情・都合を読み取ろうとする」という姿勢は、スタッフマネジメントにも重要です。
特に院長先生は苦手な方が多いと思います。以前に、この話をしたら耳をふさいでしまった方もいました(笑)
次回の記事では、このポイントをスタッフマネジメントの視点でお伝えします。