【サービスとホスピタリティの違い⑤】自分も相手もハッピーな世界を目指す

「うちに関わる患者さん、スタッフには幸せになってほしい!」

そう真剣に語られる志のある院長先生とお会いする機会があります。

しかし残念ながら、院長先生が願うように患者さんもスタッフも「この医院でよかった」と心から思ってくれている幸せな歯科医院を実現しているケースはごくわずかです。

その「想い」は本当なのに、実際にはうまくいかない。それどころか自分の想いが全く伝わらず、望まない現象ばかりが起きてしまっているという悲しい状態をよく目にします。

その「ズレ」が起きる1つ要因が「自己都合」「相手都合」という視点です。

今回も「サービスとホスピタリティの違い」シリーズの続きをお伝えしまずが、そんな2つの大切な視点についても考えてみてください。

こんにちは、一般社団法人日本歯科ホスピタリティ協会の河合良一です。

今回は「サービスとホスピタリティの違い」シリーズ⑤です!

※この記事は以下の表の⑥の項目です。

サービス=相手の世界を無視して、自らの利益拡大・効率UPを目指す

「相手の世界」とは、ここでは「その人の背景にある事情都合、ライフスタイル、感情など様々を含めたもの」と考えてください。

これまでにもお伝えしてきたように、サービスは画一的なものとして人へ平等・均等に商品やを提供するものです。すべての人に同じことをすることが良いこととされています。

ビジネス効率を高め、コストを下げ、お客さんに一定の質のものをそつなく提供できます。

そこに1人1人のお客さんの世界を考える余地はありません。そのため、自ずと相手の世界を無視してビジネスを行うことが当たり前になります。

商品開発のために相手を見ても「市場・マーケット」というマスでの捉え方をして、以下に自社の売上を拡大できるか、消費を拡大できるかという目的を目指しています。

口腔内だけを診るのはサービス医療

患者さんにも1人1人にそれぞれの「世界」があります。そんな1人1人の世界に配慮することなく、口腔内だけを診て治療をするのはサービスです。

近年の歯科業界ではTCが増えてきており、患者1人1人のことを詳しく知ろうとする歯科医院が増えているのは良いことであると感じます。

しかし、カウンセリングがマニュアル的でヒアリング内容が表面的であったり、深く聴けたとしてもその内容を治療計画や治療に活かせていなかったりする医院が多いようです。

そうなると、せっかくカウンセリングをしていてもサービス医療のままです。カウンセリング自体がサービス化している医院もある事でしょう。

ここが、ひとまずカウンセリングを導入・定着させた歯科医院での次のステップへの課題ではないでしょうか。

保険制度は相手の世界は配慮しない

日本国民に対して、生活を営むために必要な最低限の医療を、平等に、画一的に提供することを目指したのが国民皆保険制度です。

医療のサービス化により、我々は等しく低価格で医療を受けられる恩恵の反面、「保険でいいや」と考える人が多いため、歯医者として考えるベストな医療を提供しづらい面もあるのは多くの先生が感じていますよね。

しかし、それに甘んじて「高い金額を提案がしづらいから」とか、「1人1人に時間が取れないから」という医院の都合で相手の世界を踏まえたベストな治療を提案しないままでいるのも「医療のサービス化」の中にいるということになります。

ホスピタリティ=相手と自分の世界の「調和的関係性」の創造を目指す

よく勘違いされるのが、相手の世界にとって良いことをするために、自分の世界は犠牲にするという考えです。

しかし、こちらの記事でもお伝えしたようにそれは自己犠牲でありホスピタリティではありません。

目の前の患者さんのことだけを優先したら、なるべく安い費用で、長いアポイント時間を取り、高度な医療を提供してあげることがベストかもしれません。

しかし、それでは医院経営が成り立たちませんし、ギリギリ成り立ったとしても釈然としない気持ちが残りますよね。
薄利多売を信条としている人ならばそれでいいと思います。しかし多くの方の場合には疲弊していきます。

相手もハッピー、自分もハッピーの世界を目指す

相手のハッピーが自分のハッピー。だから、お互いにハッピー。
互いにうれしい。そんな関係性が生まれていること。
それを「調和的関係性」と表現しました。

  • 患者さんに良くなってほしい。10年後も歯を守って欲しいというこちらの想い。
  • しっかり噛めるようになりたい、ずっと健康でいたいという患者さんの想い。
  • 治してくれてありがとうございます。と気持ちよくお金を支払える患者さんの想い。
  • 治って本当によかったですね!と気持ちよくお金を受け取れるこちらの想い。

そんな、自分と相手の想いが一致している状態を目指すのがホスピタリティです。

「自分の世界」だけを見てマニュアルやルール、売上や効率などを最優先していると、この世界に至ることはありません。

※補足:ビジネスでよく使われるWinWinという言葉がありますが、これは「共に勝つ」という意味なのでちょっとニュアンスが違うと考えています。誰かと比較したり、競争したりという世界ではなく、その人との世界の中で互いにハッピーという価値観です。

スタッフマネジメントでも同様の考え方

私が提唱しているホスピタリティ型のスタッフマネジメントでは「相手も自分(院長・医院)もハッピー」を目指すスタンスは対患者さんに対してのものと全く同じです。

マニュアルやルール、規則はうまく活用しながらも、相手の世界と自分の世界の調和を目指しましょうというスタンスです。

スタッフのわがままを聞きましょうということではありません。お互いの世界を大切にしながら一緒にハッピーを目指そう、ということを貫きましょうということです。
歯科医院の中で『共存共栄』を本気で目指していくのがデンタルホスピタリティです。

スタッフも同様の考え方を知ることが重要

医院側だけが「一緒にハッピーになろう」と考えているだけでは、なかなかその状況は生まれません。もちろん、最初は医院側がそのスタンスを示すことがスタートです。

しかし、いずれはスタッフも医院側や院長が大切にしたい価値感や、患者さんのこと、アポイントの状況、他のスタッフの状況やそれぞれの想いなど、自分のことだけでなく医院側の世界を大切にしようというスタンスを持ってくれていないと「お互いにハッピー」は難しくなります。

もし医院が「一緒に幸せになろう」という姿勢でいるのに、どこまでも自分だけを大切にしたい人はそのコミュニティにいることは難しくなります。

※口で「一緒に幸せに」と言っていても実際の言動が「自己都合(主語的)」なものばかりだと簡単に見抜かれて失望されるので、そこは気を付けてください。学んでいる先生ほど、その罠に無自覚でハマる場合がかなり多いので要注意です。

スタッフ全員がお互いにお互いのことを考えられる状態に至るには、日ごろのコミュニケーションや良好な関係性、そして価値観の共有などのベースが必要となります。

ここにある程度の難易度があるので、自分の医院のホスピタリティ化を目指すときには「スタッフ1人1人に配慮したら医院経営が成り立たなくなる!」という恐怖心を持つ方がいます。

しかし、志がある先生にとっては多少の壁があったとしても目指す価値がある世界ではないでしょうか。そして、その壁は意志があれば絶対に乗り越えられます。

自他の世界の調和には技術が必要

ホスピタリティは「したい」と思うことをする「心の技術」であると同時に、「思考の技術」でもあります。

したいという思いを大切にしながら、文脈や状況を読み、なおかつ相手都合を配慮して自分都合のみの判断にならないように調整することが求められます。

個別のセッションやTC向けのセミナー等では、これらの技術を医院の問題解決や実践を通しながら身につけていただくことをしています。
この記事では、自分都合だけにならない思考方法のポイントを2つだけお伝えします。

「それって、誰の都合?」という問い

何かを新しいことをしようと考えた時、何かを決断しなくてはいけないとき、医院全体の仕組みや診療、ルールの見直しが必要なときなど、あらゆる場面でこの問いを自分に投げかけてみてください。

なお、自分の都合になっていることが「悪」なのではありません。

あくまで、そこに相手の都合を考えられているか、その判断は創りたい医院に向かっているかという確認を立ち止まってするための問として使ってください。

目先の問題解決だけではなく長期的にあなたが望む医院を目指すためには、時々立ち止まって自分の思考を整理することが大切です。

自分の都合を横に置いておく

本当にごく一部の人を除いて、人は無意識的に自分の都合を優先した思考をします。

それは悪いことではないのですが、自分都合の思考ばかりに囚われると、相手の都合を配慮する視点が欠如しがちです。そうなると発想の幅も非常に狭いものとなります。

(無意識に自分都合になってしまうので:「それって、誰の都合?」という問いで気が付くことが大切になります。)

例えば、この記事の前半にも書いたTCについて考えてみましょう。

スタッフがTCを担当するのは誰の都合でしょうか。医院側の診療効率の都合でしょうか。人材不足の都合でしょうか。それとも患者さんの都合でしょうか。

多くの場合には医院側の都合ですよね。

本来はドクターが直接時間を取って話を聴いたほうが良いと思いつつ、現実的に時間が確保できないことが多いのではないでしょうか。それはよく分かります。

しかし、すぐに「無理だ」と考えて思考停止にならずに、自分都合の「診療効率や売上」というのは横に置いておいてください。ここは患者さんには関係ないことです。

そして考えるのは「相手の都合」です。患者さんにとっては何がベストでしょうか。どんなカウセリングなら相手はハッピーになるでしょうか。

立ち止まると、いろいろなアイデアが出ることがあります。

  • やはりドクターが丁寧に話したほうが安心する
  • この場面ではスタッフの方が気軽に本音を話せるのでは
  • もっと時間を取ったほうが良いのでは
  • いや、もっと分かりやすくする方が負担なく良いのでは
  • もっと、こんなことまで聴けたほうが良いのでは
  • 患者さんにこんな知識を得てもらえたらいいのでは

※本来は「患者」ではなくたった1人の人を設定し、もっと丁寧に「理想の設定」をしないといけませんがが、あくまで例としてお考えください。

相手都合を考えると新しいアイデアが生まれやすい

要は様々な角度で患者さんがハッピーになれる状態を考えます。

そして、その理想と自分の都合のすり合わせをして、現時点でできるベストを模索するという順番です。

  1. 一旦、自分の都合を置いておく
  2. 相手の事情・都合を考えてみる
  3. 相手のハッピーを考えてみる(理想の状態)
  4. 自分の都合とすりあわせて現状でできるベストを模索する
  5. 今後、より良い理想の状態を目指す

このように自分たちの都合ばかりではなく、自己都合は一旦横に置いてじっくり相手の都合を考えると医院の課題や目指す方向も見えてきやすいですね。

長期的な視点で「調和」を目指しませんか?

短期的な利益には、効率化が有効です。また、流行のマーケティング手法を取り入れることも経営改善には有効です。スタッフに対してもマニュアルで管理型のマネジメントをしたほうが楽チンです。

しかし、それらをうまく活用しながらも人との「調和」を創ることも考えながら、診療システムの組み立てやマネジメントの仕組みづくりを考えた方が長期的には、患者さんの顧客化、口コミ増加、スタッフの定着率アップなどに繋がることは明らかです。

ぜひ、まずは「相手の世界」という視点と、「自己都合・相手都合」の切り分けの視点について、ご自身を振り返ってみてください。

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