マニュアル型TCとは、セミナーで学んだ台本やスクリプトに沿って、誰にでも同じ説明を行うタイプのTCです。一方、ホスピタリティ型TCとは、「いま・ここで・この人に」何が最善かを自律的に判断し、患者さんとの関係を作ることを軸に置くTCです。両者の違いは「やり方」の違いではなく、そもそもの「原理」の違いにあります。
歯科業界でTC(トリートメントコーディネーター)の導入が広がるにつれ、TCセミナーも数多く開催されるようになりました。トークスクリプトの習得、成約率アップのクロージング技法、初診コンサルシートの活用法。こうしたノウハウを学び、実践している医院は少なくないでしょう。
ただ、こんな経験はないでしょうか。
TCを導入して、確かに自費率は上がった。説明が丁寧になったぶん、患者さんの反応も悪くない。ところが自費率20〜25%あたりで伸びが止まり、そこから先がどうしても突破できない。スタッフも「なんだかセールスっぽくて嫌だな」と感じ始めている。——心当たりはないでしょうか。
もしそうした壁にぶつかっているなら、原因は「やり方」ではなく「原理」にあるかもしれません。
正直に言えば、私自身、前職でマニュアル型のTCをたくさん育成してきた人間です。セミナーで台本を渡し、スクリプトを教え、成約率を上げるノウハウを提供してきた。実際に成果は出ていました。ただ、その先で行き詰まる医院を何度も見てきたし、振り返れば「マニュアル型TCをたくさん排出してしまったな」という反省もある。だからこそ、今この記事を書いています。
この記事では、歯科業界に18年関わり、マニュアル型の限界を身をもって経験してきた立場から、マニュアル型とホスピタリティ型の決定的な違いをお伝えします。
マニュアル型TCとは——「説明する仕事」の構造
マニュアル型TCとは、セミナーで学んだ台本・スライド・問診コンサルシートに沿って、決められた手順で説明を行うTCのことです。
その特徴を一つずつ見ていきましょう。
まず、誰にでも同じ対応・同じ説明を行うこと。セミナーで渡されたスクリプトを覚え、もらったスライドをそのまま読み、問診コンサルシートの質問項目に沿って聞き取りを進めていく。標準化された手順を正確に実行することが求められます。
次に、仕事の定義が「説明すること」あるいは「契約を取ること」になりやすいということ。決められたことを読む、決められた流れで進める。それ自体は悪いことではありません。何もしないよりは確実に患者さんへの情報提供は増えますし、実際に自費率は上がる。結果は出ます。
ただ、ここに構造的な限界がある。
私の18年の経験で繰り返し見てきたのは、マニュアル型TCを導入した医院が自費率20〜25%あたりで頭打ちになるパターンです。こういう医院さん、かなり多い。説明は丁寧だけれど、患者さんからすると機械的に感じてしまう。「普通の歯医者さんより丁寧だな」とは思ってもらえても、「この人に任せたい」「この医院を信頼したい」という感情までは生まれにくい。
さらに、マニュアル型の構造は、どうしてもセールスに近づいていきます。患者さんもそう感じるし、TC自身もそう感じてしまう。「高いものを売りつけているんじゃないか」という後ろめたさが生まれ、TCを続けることにやりがいを持ちづらくなる。そういった声を、数え切れないほど聞いてきました。
誤解のないように補足しますが、マニュアル型TCが「悪い」わけではありません。マニュアルは、TCとしての基本動作を身につけるうえで不可欠な土台です。問題は、マニュアルの「先」が見えないまま、説明と契約が仕事の目的になってしまうこと。全く対極の存在であるホスピタリティ型TCとは、原理そのものが違うのです。
ホスピタリティ型TCとは——「関係を作る仕事」への転換
ホスピタリティ型TCとは、「いま・ここで・この患者さんに」何が最善かを自律的に判断し、患者さんとの信頼関係を築くことを仕事の核に置くTCです。
この考え方の基盤にあるのが、哲学者・山本哲士が提唱するホスピタリティ理論です。山本哲士は、サービスとホスピタリティは「良い・悪い」ではなく、そもそもの原理が違うと説いています。
サービスの原理は「いつでも・どこでも・誰にでも」。標準化・効率化が正義であり、誰がやっても同じ結果が出ることが良いこととされます。一方、ホスピタリティの原理は「いま・ここで・この人に」。この瞬間、この場所で、この患者さんにとって何が最善かを、自分で判断し、行為する。
MANUAL TC
マニュアル型TCの原理
いつでも・どこでも・誰にでも
台本・スクリプト通りに説明する。「私がこの説明をする」——主語は常に自分。仕事の定義は「説明すること」「契約を取ること」。
HOSPITALITY TC
ホスピタリティ型TCの原理
いま・ここで・この人に
目の前の患者さんに最善を判断する。「この患者さんとの間に納得が生まれる」——関係の中から結果が立ち上がる。仕事の定義は「関係を作ること」。
ここで重要なのが、思考様式の違いです。サービスは「主語制」で動きます。「私がこの説明をする」「私がこのスクリプトを読む」——主語は常に自分です。対してホスピタリティは「述語制」。「信頼が生まれる」「納得が生まれる」——主語を固定せず、関係の中から結果が立ち上がってくる。TCの仕事に当てはめれば、「私が説明する」から「この患者さんとの間に納得が生まれる」への転換です。
この原理の違いが、TCの仕事をまったく別のものに変えます。
ホスピタリティ型TCの仕事は、契約を取ることではありません。患者さんとの関係を作ること。そして患者さんの納得を生むこと。私たちが提供したい医療を伝え、患者さんが「それを受けたい」と思い、「一緒に頑張っていきましょう」という関係性が生まれる。そこにあるのは、セールスではなく「協働」です。
患者さんは一人ひとり口腔内も違えば、生活背景も、価値観も、不安の中身も異なります。それは当然のことだと誰もが頭では分かっている。ところが、その「違い」に実際に対応する技術を身につけることが最も難しい。教える側も、どうしたら個別対応を教えられるのか見えにくい。柔軟な対応ができる優秀なTCがいても、「私は普通にやっているだけ」と言うばかりで後輩にそのスキルを伝えられないということが起こりがちです。
ホスピタリティ型TCの育成は、まさにこの「一人ひとりへの個別対応」という最も難しい部分に正面から取り組むものです。
なぜマニュアルだけでは「自費率25%の壁」を越えられないのか
マニュアル型TCで自費率が一定水準まで上がるのは事実です。何も説明しない状態から、きちんと説明する体制を作れば、それだけで自費率は改善する。患者さんにとっても、治療の選択肢を知ることは明らかにプラスです。
ところが、20〜25%あたりで伸びが止まる医院が非常に多い。なぜでしょうか。
POINT
ここで考えたいのが、「説明」と「伝わる」の違いです。どんなに丁寧な説明でも、患者さんのピントが合っていないところに話をしても届かない。信頼関係のある相手にしか、人は心のドアを開けません。
当スクールの講師の医院の院長である山村先生は、これを「メガネ理論」と呼んでいます。同じ風景を見ていても、メガネのピントが合っている部分と合っていない部分がある。どんなに専門的で分かりやすい説明であっても、患者さんのピントが合っていないところに話をしても、届かない。ぼやけた景色をいくら丁寧に描写しても、相手には見えないのです。
ここからが核心です。患者さんがどこにピントを合わせているかを知るには、相手のメガネをかけさせてもらうしかない。では、患者さんはいつでも誰にでもメガネを貸してくれるか。そうではない。信頼関係のある人、心のドアを開けられる相手に対してしか、人はそのメガネを貸そうとしないのです。
つまり、マニュアル通りの説明は、患者さんのメガネを借りることなく、こちらの視点から「良い情報」を提供しているに過ぎない。
さらに山村先生が指摘するのは、患者さんが「家に帰った後」のことです。ピントが合っていない部分の話をされた患者さんは、自分ではなんとか理解したつもりでも、家に帰って家族に説明しようとすると思い出せない。100の情報を伝えたつもりでも、患者さんが家族に再現できるのは30か40程度。それを聞いた家族は「よく分からない治療はやめておいた方がいい」と言ってしまう。
ところが、ピントが合っている部分の話なら、患者さん自身がよく理解できているから、家族にも70〜80の再現度で伝えられる。家族も「なるほど、それは良い治療かもしれないね」と納得してくれる。
だから自費率25%で止まるのです。マニュアル型TCは、信頼関係という土台を築く前に「説明」から入ってしまう。患者さんのメガネを借りられないまま説明するから、一定の水準までは届いても、その先の「納得」と「信頼」には届かない。
ホスピタリティ型TCは、まず患者さんとの関係を作ることから始めます。信頼関係ができて初めて、患者さんは自分の本音を話してくれる。本当の不安、本当の希望が見えてくる。そこから「この人にとっての最善」を一緒に考えていく。この過程そのものが、契約率や自費率という数字になって返ってくるのです。
マニュアルの「先」に進むために必要なこと
ここまで読んで、「ではマニュアルを捨てればいいのか」と思われた方がいるかもしれません。そうではありません。
マニュアルは必要です。基本の型を身につけることは、すべての成長の出発点です。私たちのスクールでもテンプレートやスライドを提供しますし、まずは徹底的に型を真似してもらうところから始めます。
大事なのは、マニュアルを「ゴール」にしないことです。
当スクールの講師であるTC歴20年の中村綾は、そのキャリアの出発点で、まさにマニュアルの徹底から始めた人です。院長の治療説明をすべてレコーダーで録音し、書き起こして丸暗記した。患者さん向けの歯科雑誌を丸暗記して、専門用語ではなく患者さんが理解できる言葉を身体に叩き込んだ。TCの仕事における致命的なミスは「患者さんの分からないスイッチを入れてしまうこと」だと中村は言います。専門用語で話した瞬間、患者さんの心に不快の切り替えスイッチが入る。それを防ぐために、「誰よりも患者さんの知っている言葉で話す」ことを初動で徹底した。
しかし中村はそこに留まりませんでした。20年の経験を通じて、院長の言葉を起点にしながらも、目の前の患者さん一人ひとりに合わせた「自分なりのアレンジ」を加えていった。今では勤務医8名それぞれの治療方針ともすり合わせながら、患者さんごとに個別の対応をしています。結果として、自費率50%、年間約1億円の契約という成果を出し続けています。
※成果は個人や医院の状況により異なります。
興味深いのは、中村がTCセミナーを受けたのは、キャリア17年目にして初めてだったということです。それが私たちのホスピタリティTCスクールの前身となるセミナーでした。中村は「自分がやってきたことは間違いではなかったと確信した」と言います。つまり、中村が長年かけて自力で到達していたのは、ホスピタリティ型TCそのものだった。ホスピタリティという理論が、自分のやってきたことを説明する「軸」になったのです。
ホスピタリティ型TCはなぜ「やりがい」を感じられるのか
マニュアル型TCの現場で、もう一つ繰り返し聞いてきたのが「TCがつまらない」「セールスみたいで嫌だ」という声です。
これは当然の反応でしょう。台本を読み、決められた流れで説明し、契約を取ることが仕事だと定義されたら、「この仕事を通じて人の役に立っている」という実感は生まれにくい。
ホスピタリティ型TCを学んだ受講生からは、まったく違う声が返ってきます。
VOICE
「流れ作業」だった仕事が変わった
参加前の自分は、仕事を流れ作業のようにこなしていただけでした。それがスクールに参加してから患者さんとの会話が増え、「こんなに優しいところならもっと早く来ればよかった」「良い歯医者さんで良かった」と声をかけてくださる方が増えました。
受講生(高卒2年目・歯科助手)
ホスピタリティTC養成スクール受講
また、すでに経験豊富なベテランTCとして成果を出していた高橋さんは、基礎から学び直したいとスクールに参加し、「河合さん、半年間ありがとうございました。最終回マジですごすぎました。こんなに楽しい勉強とやりきった達成感は初めて。スタッフと叫びながら帰ってきました」というメッセージをくれました。未経験者もベテランも、同じように変わっていく。
なぜか。
ホスピタリティ型TCは、「契約を取る人」ではないからです。患者さんにとっての支援者であり、相談相手であり、伴走者。時には正しい知識を伝え、時には深く話を聞き、時には一緒に悩む。そうした関わりを通じて患者さんとの間に信頼が生まれ、患者さん自身が「この治療を受けたい」と納得する。
当スクールの講師・中村綾は、かつてのTC日記にこう書いていました。
私たちにとって患者さんは何百人の中の1人であっても、その患者さんにとって私は安心して心を許せるたった1人の存在だったのなら——
何百人いても、今ここで目の前にいるこの人との関係に全力を注ぐ。そして中村は、自費治療で患者さんが支払う金額について、こう言い切ります。「それは儲けではなく、患者さんからの”ありがとう”を数値化したもの」だと。
自費金額は儲けではなく、患者さんからの「ありがとう」を数値化したもの。
この言葉に共感できるかどうか。それが、マニュアル型とホスピタリティ型の分岐点かもしれません。
TCセミナーを選ぶ前に確認してほしいこと
歯科業界には多くのTCセミナーがあります。どれも一定の成果をうたっており、選ぶのは簡単ではありません。ただ、セミナーを選ぶ前に、一つだけ確認していただきたいことがあります。
そのセミナーは「やり方」だけを教えるのか、「あり方」から伝えるのか。
トークスクリプトや成約率アップの技法は、確かに即効性があります。明日からすぐに使えるノウハウは、忙しい現場にとってありがたい。しかし、「なぜそうするのか」が分からないまま技法だけを学ぶと、応用が効きません。台本にない状況に直面したとき、自分で判断する力がなければ、そこで止まってしまう。
マニュアル型のTCだと、一歯対のコンサルテーションから先に進めないケースが多いのもこの理由です。一口腔単位で説明する——ペリオも矯正も踏まえた包括的な治療計画を患者さんと共有する——というところにたどり着けない。スタートの段階から「あり方」を土台にしているかどうかで、TCの成長の天井が決まってしまうのです。
ホスピタリティ型TCは、まず「あり方」——自分はなぜこの仕事をするのか、患者さんとどんな関係を築きたいのか——を明確にしたうえで、「やり方」を身につけます。あり方が土台にあるから、技術が応用できる。自分で考えて判断できるようになる。だからこそ、TC自身が自律的に成長し続けることができます。
当スクールの講師は、自費率50%・契約率70%超という成果を長年にわたって出し続けている現役のTCです。理論と実践が結びついているからこそ、受講生の現場で再現性のある成果につながると考えています。
※成果は個人や医院の状況により異なります。
まとめ——原理の違いを知ることが、最初の一歩
マニュアル型TCとホスピタリティ型TCの違いは、技術の巧拙ではありません。そもそもの原理が違います。
マニュアル型は「いつでも・どこでも・誰にでも」同じ説明をする仕事。ホスピタリティ型は「いま・ここで・この人に」最善を判断し、関係を作る仕事。マニュアル型の思考は「私が説明する」。ホスピタリティ型の思考は「この患者さんとの間に納得が生まれる」。
マニュアル型が悪いのではなく、マニュアルだけでは超えられない壁があるということ。そして、その壁を越えるためには「やり方」の改善ではなく「あり方」の転換が必要だということ。
この違いを知ることが、TCとしての次のステージに進む最初の一歩です。
もし「自分のTCはどちらだろう」「このまま続けていて大丈夫だろうか」と少しでも感じたなら、ぜひ一度立ち止まって考えてみてください。日々の現場で、患者さんとの間に「信頼」と「納得」が生まれているかどうか。その答えが、次に進むべき方向を教えてくれるはずです。
ホスピタリティ型TCについて詳しく知りたい方は、当スクールのセミナー情報をご覧ください。
FAQ
Q マニュアル型TCとホスピタリティ型TCの一番の違いは何ですか?
マニュアル型は「誰にでも同じ説明をする」仕事、ホスピタリティ型は「目の前のこの患者さんとの関係を作る」仕事です。やり方の違いではなく、仕事の定義そのものが異なります。
Q マニュアルは不要ですか?
いいえ、マニュアルは基本動作を身につけるために不可欠です。問題は、マニュアルを「ゴール」にしてしまうことです。型を習得したうえで、その先にある個別対応の技術を身につけていくことが重要です。
Q なぜ自費率20〜25%で止まるのですか?
マニュアル型は信頼関係を築く前に「説明」から入るため、患者さんの本当のピントに合った情報が届きにくくなります。一定の水準までは丁寧な説明で到達できますが、「納得」と「信頼」が必要な領域には届かないのです。
Q ホスピタリティ型TCは未経験でも学べますか?
はい。当スクールでは高卒2年目の歯科助手からベテランTCまで、幅広い方が受講されています。まず型を徹底的に身につけるところから始め、その土台のうえにホスピタリティの視点を重ねていきます。
Q TCセミナーを選ぶとき、何を基準にすればいいですか?
「やり方(トークスクリプト等)」だけを教えるのか、「あり方(なぜそうするのか)」から伝えるのかを確認してください。あり方が土台にあるかどうかで、TCの成長の天井が変わります。
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河合 良一
ホスピタリティTC養成スクール代表 / 一般社団法人日本歯科ホスピタリティ協会 代表理事
歯科業界18年。前職のコンサルタント会社で売上拡大を支援する中で「ノウハウの限界」に直面し、山本哲士のホスピタリティ理論と出会う。以来10年、ホスピタリティを土台にした医院づくりに取り組む。ノウハウを渡すのではなく、共に見つけ、育てる「ホスピタリティ開発者」。
※個々の医院の状況により成果は異なります。本記事は特定の治療効果を保証するものではありません。


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