TC導入を検討している院長から、「うちはタイミングですか?まだ早いですか?」とよく聞かれます。私の答えはシンプルです。「自分が患者さんとの対話をすべて担いたい、それが理想だ」という院長以外には、TCはいた方がいいと思っています。
ただ、「いた方がいい」と「特に効果が出やすい」は少し違います。TCの存在が医院全体を変えていく医院には、共通する特徴があります。この記事では、その特徴と、本当に数少ない「先に整えるべき状態」についてお伝えします。
TCが「いた方がいい」医院は、ほとんどの医院
歯科医師である院長が、患者さんへの説明からカウンセリング、治療計画の提示まですべてを一人で担う。その状態を「理想」と感じているならば、TCは不要かもしれません。でも、そういう院長は正直、かなり少数だと思っています。
多くの院長は、治療に集中したい気持ちと、患者さんにちゃんと伝えたいという気持ちの両方を持っている。診療室の中で「この治療の意味、もっとちゃんと説明したかった」「患者さんが納得しているのかどうか、分からないまま次の患者に移ってしまった」という感覚を積み重ねていく。私はコンサルタントとして8年、ホスピタリティ開発者として10年、多くの院長のそういうジレンマを見てきました。
TCはそのジレンマを解消するための存在です。院長が診療室で発揮できる医療の質を上げるために、患者さんとの関係づくりを担う人。「患者さんに話しかける係」ではなく、院長の医療の想いを患者さんとの関係として育てていく人です。
「自分が患者さんとの対話をすべて担いたい」という院長以外には、TCはいた方がいい。それが私の基本的なスタンスです。問いは「いる・いらない」ではなく、「どんなTCを、どう育てるか」です。
特に成果が出やすい医院に共通していること
「TCを置いたらどうなるか」に違いが出る部分があるとしたら、それは院長の中に「こんな医療をしたい」という想いがあるかどうかです。
患者さんに伝えたい価値がある院長のもとでは、TCはその価値の「翻訳者」として機能します。院長が診療室で感じていること、治療を通じて患者さんに届けたいこと——それをTCが患者さんとの対話の中で形にしていく。院長が忙しくて届けられなかったものが、TCを通じて届くようになる。このプロセスが動き始めると、患者さんとの関係の質が変わります。
私がコンサルタント時代に経験したことがあります。見た目にはうまくいっている医院、成果も出ている。でも院長は「自分が本当にしたい医療ができていない」という疲弊感を持ち続けていた。そこにホスピタリティを土台にしたTCが機能し始めた時、院長が言っていたのは「患者さんが変わった」ではなく、「自分の医療がやっと届く感覚が出てきた」という言葉でした。
逆に、「自費率を上げたい」「成約率を改善したい」という目的が先に立っている場合、TCはどうしても説明係・売り込み係になりやすい。患者さんはどこかセールスを感じますし、TC自身も「なんのためにこれをやっているのか」が見えにくくなる。その結果として、TCが続かなかったり、成果が上がっても医院の関係性が良くなっていかない、ということが起きます。
POINT
TCが深く機能する医院には、院長の中に「患者さんに届けたい医療の価値」があります。TCはその価値を患者さんとの関係として翻訳する存在。想いが先にあってこそ、TCの動きに意味が生まれます。
「TC導入のタイミングではない」と言える、本当に数少ないケース
「まだ早い」と言えるケースは、実はかなり限られています。私が整理すると、ほぼ一つです。TCを担える人物が今の院内に誰もおらず、かつ育てることへの協力者もいない状態——これだけです。
「スタッフの定着率が低い」「院長が忙しくて育てる時間がない」「カウンセリングルームがない」。こういった状況は「先に解決すべき問題」ではなく、むしろTCを育てていく中で一緒に変わっていくことが多いです。TC育成のプロセスが、院内の関係性そのものを変えていく力を持っているからです。
適任者がいない状態についても、「誰がTC向きか」は意外と決めてかかる必要はありません。TC未経験、歯科助手歴が浅いスタッフでも、ホスピタリティの考え方と実践を身につけることで、大きく変わっていく事例を私は何度も見てきました。「今いるスタッフでは無理かもしれない」という判断は、もう少し後でしていただいていい。
「まだ早い」と言えるのは、TCを担う人物が今おらず協力者もいない——そのケースくらいです。それ以外のほとんどの課題は、TC育成のプロセスの中で解決に向かっていきます。
院長が感じている「ジレンマ」がそのまま、TCが必要な理由になる
「患者さんにもっと伝えたいけれど時間がない」「自分が思い描いている医療の価値が、患者さんに届いていない気がする」「診療室で感じていることを言葉にしてくれる人が院内にいない」——そういう感覚を持っている院長は、TCを育てることで確かに何かが変わります。
私がホスピタリティ型のTCにこだわる理由の一つは、マニュアル型のTCでは届かない部分があるからです。マニュアルは「いつでも・どこでも・誰にでも」同じ説明を届けることを得意とする。それはそれで意味がある。でも、院長が持っている「この患者さんに伝えたい」という個別の想いを届けるには、関係性の中で動けるTCでなければ難しい。
「この医療をしたい」という院長の想いと、「この人に伝えたい」というTCの動きが重なる時、患者さんとの関係に何か違うものが生まれます。それは数字になる前に、院長自身が「やっとうちらしい医療ができている」という感覚として現れることの方が多い。私はその変化を何度も見てきました。
全ての医院に合うわけではない。だから「合う医院」には圧倒的に効く。
まとめ
TC導入のタイミングについて、私はこう考えています。「自分が患者さんとの対話をすべて担いたい院長以外は、TCはいた方がいい」。これが基本です。「まだ早い」と言えるケースは、担える人も協力者もいない状態のみ、それ以外の条件はほとんど理由にならない。
その上で、特に大きな変化が起きるのは、院長の中に「こんな医療をしたい」「この価値を患者さんに届けたい」という想いがある医院です。TCはその想いを患者との関係に育てていく存在。想いがあって、それを一緒に形にしようとしているスタッフがいれば、TC育成は動き始められます。
FAQ
Q TC未経験・未導入の医院でも始められますか?
はい。スクールには毎期、TC未経験・未導入の医院からご参加いただいています。0からカウンセリングシステムを構築する内容も含まれているので、「誰をTCにするか」という段階から一緒に考えていくことができます。
Q スタッフの定着率が低い時期でもTC育成は意味がありますか?
定着率の問題が解決してからTC育成、という順番である必要はないと思っています。TC育成のプロセスが院内の関係性や方向感を変えていき、その結果として定着率が改善していく事例もあります。「先に定着率を完璧にする」を待っていると、なかなか動き出せない。
Q 「マニュアル型TC」と「ホスピタリティ型TC」、何が違うのですか?
マニュアル型は「いつでも・どこでも・誰にでも」同じ説明を届けることを得意とします。それは一定の効果があります。ホスピタリティ型は「今・ここで・この患者さんに」院長の医療の想いを届けることを目指します。患者さんとの関係の質、そしてTCのやりがいが根本的に変わります。
Q 院長自身がスクールに参加する意味はありますか?
院長とスタッフが一緒に参加される医院では、スクール後の動きが変わります。「院長が伝えたいこと」と「TCが届けたいこと」の方向が揃うからです。スタッフだけの参加でも十分に機能しますが、複数名・院長帯同での参加はより深い変化につながります。
河合 良一一般社団法人日本歯科ホスピタリティ協会 代表理事 / ホスピタリティTC養成スクール代表
歯科業界専門コンサルタントとして8年、ホスピタリティ開発者として10年。ノウハウを渡すのではなく、医院ごとのホスピタリティを共に育てることを仕事にしている。
※個々の医院の状況により効果は異なります。本記事は特定の成果を保証するものではありません。記事内の事例は実際の経験に基づく参考情報です。


コメント