ホスピタリティTCスクールのDay4では何を学ぶのか。全5回のスクールで4回目にあたるこの回は、バイアスを解除する思考技術(河合良一)、多点接触で患者の納得を生むペリオコンサルの設計(森 愛)、売らない・追わない・説得しないコンサルの哲学(中村 綾)という3つのセッションが展開されます。理論から現場へ、知識から自律的な判断へ——Day4は、受講者の学びが「使える技術」として深化する転換点です。
Day4が始まる前の変化——宿題に現れた受講者の成長
Day1〜3では、ホスピタリティの原理を学び、初診コンサルとセカンドコンサルの設計を職場で試してきた。Day4の冒頭は、その「宿題」のフィードバックから始まる。学んだことを実際に現場で試し、体験を持ち寄る公開コンサル形式だ。受講者の変化は、宿題に如実に表れていた。
「だんだん理解が深まったというか、体感されていることが多くなってきているんじゃないかなと思います」と、宿題に目を通した河合はそう話した。「重い症例のセカンドコンサルで、前回学んだことをちょっと加えるだけですごく話が弾むようになった、という報告もありました」。
なかでも印象的な宿題として紹介されたのが、歯科医師歴40年を超える院長の体験だった。「患者さんに直接感謝を伝えることは、今まであまりなかった」と気づき、日頃から通い続けてくれる患者さんに「しっかり通ってくださってありがとうございます」と声をかけてみた。すると、20年来ずっと寡黙だった患者さんが初めて笑ってくれた——という。技術の話ではなく、ただ感謝を言葉にしただけ。それが長年積み重ねてきた関係を動かした。
VOICE
宿題から届いた「非分離」の瞬間
「ありがとうございます」を患者さんに直接伝えることは、今まであまりなかった。最初ちょっと戸惑いました。でも「しっかり通ってくださってありがとうございます」と伝えたら、20年来ずっと寡黙だった方が、初めて笑ってくれたんです。
飯島 浩 先生
Day4参加者・院長(歯科医師歴40年超)
この宿題を受けて、河合はDay4のテーマを宣言した。「今日の目標は、皆さんに学びの次のステップへ行ってもらうこと。『やってみたら変わった』だけでなく、なぜ変わったのかが構造として見えるようになってほしいんです」。
「やってみたら変わった」という段階では、うまくいかなかったときに「どうしたらいいんだろう?」と解決策を探しに行く。しかし構造として見えるようになると、問いの立て方が変わる。「あれ、今何が起きているんだろう?」——この問いを持てるようになることが、後半戦の深化の出発点だ。
第1講座(河合良一)——バイアスを解除するという技術
第1講座で河合が取り上げたテーマは「バイアスを解除する」こと。日常のコンサルの場でこんな壁に当たったことはないだろうか。「患者さんの反応が薄くて感情が読めない」「不機嫌な患者さんとうまく話せなかった」「沈黙が続いて、次に何を言えばいいかわからなくなった」「質問されて固まってしまった」。こうした体験が今回の宿題にも複数書かれていた。
河合はこれらを個別のスキルの問題として扱わなかった。代わりに「どこかで詰まりが起きているんです。その詰まりを構造として見つけられるようになることが大事です」と整理した。
そのための第一歩として取り上げられたのが「バイアス」だ。ある出来事がきっかけで特定の相手に先入観のフィルターが張られると、以来その人のすべての言動がそのフィルター越しに見えてしまう。感じが悪いと感じた患者さんが来院する日だけで、すでにコンディションが落ち始める。発信の質が下がり、相手もネガティブに反応する。悪循環が気づかないうちに回り続ける——それが「バイアスがある状態」だと河合は言う。
厄介なのは、自分にバイアスがあるとはなかなか気づけないことだ。「しかも一度バイアスができてしまうと、自分だけでは外しにくいんですよ。だってもう嫌いだから、そもそもその人のことを考えたくないまで生まれてしまうので」。
この日のセッションでは、自分の思考を意図的に動かすことでバイアスを解除する技術がワークを通じて体験された。スキルや話法とは次元の異なる、「思考の技術」だ。
受講者の宿題の中にこんな報告があった。事前の連絡で長文を送ってきた患者さんに、最初「正直この方はちょっと面倒な方かな」と感じたという。だがこのセッションで学んだことを試したところ、気持ちがまったく変わった。最終的には「この方にとって、うちが最後の歯医者でありたい」とまで思えるようになった——という(参加者・佐藤先生)。
POINT
バイアスを解除する技術は、特定の患者さんへの「対処法」ではない。自分が今どんな状態にいるかを自分で見て、自律的に関わり直す力——それがDay4が目指す「思考の技術」です。
河合はセッションの最後にこう言った。「困ったときの基本は『受信に戻る』こと。相手の背景に何があるか、この人には今どう関わるといいかを自分で感じ、考える。その場その場にとらわれるのではなく、構造として見て、自律的に次に進んでいける人が院内に一人でもいたら、医院の医療は本当に良くなっていきます」。
第2講座(森 愛)——多点接触で患者の納得を生むペリオコンサル
第2講座は森 愛によるペリオコンサルの実践設計。「TC歯周病治療をどう説明すればいいかよくわからない」「衛生士に任せていて、TCは関われていない」——そんな現状に正面から向き合う内容だった。
森のセッションを貫くキーワードは「認識の土台作り」だ。歯周病治療は「クリーニング」ではなく「治療」であり、修復治療の前にある必然のプロセスである——その認識を患者さんが腑に落とした状態で治療に入るために、TCが果たせる役割を具体的に整理した講座だった。
「患者さんにとって歯周病治療は、自覚症状がないまま『割り込んできた謎の工程』に見えがちなんです。全体像が見えていないから、なぜ先にこの治療をするのかが分からない。その全体像を渡してあげるのがTCの役割です」と森は言う。
もう一つの核は「多点接触」という考え方だ。認識の土台は、誰か一人が一度説明すれば積み上がるものではない。TC・ドクター・歯科衛生士がそれぞれ異なる角度・タイミングで繰り返し伝えることで、患者さんの中でじわじわと落ちていく。「一番最初に伝えたから理解してるって思ったら大間違いです」という一言が、受講者の間で「あるある」として響いた。
「どのパンチが当たって患者さんに効くかは、当ててみないと分からない。だからこそ全員が、それぞれの立場で触れていくことが大事なんです」。森のセッションは、ペリオコンサルを「情報提供」ではなく「協働の設計」として捉え直すきっかけとなった。
「ドクター・TC・衛生士、誰がいちばん先に話すのが効果的か」よりも大事なことがある。誰もが何度も、それぞれの角度で触れているかどうか——これがペリオコンサルを機能させる鍵だ、と森は言う。
第3講座(中村 綾)——「売らない」が自費を動かす理由
第3講座を担当した中村 綾のテーマは「売らない、追わない、説得しない。それでも患者さんが『これにします』と言ってくださる理由」。TC歴20年・対応患者数3万人超の中村が、自費コンサルの哲学と設計を語り尽くした。
まず中村が話したのは、かつての自分の失敗だった。「TCを始めた頃は、一生懸命説明することが全てでした。でもそれが、気づかないうちに患者さんを置き去りにしていた。特に苦手にしていた50代・60代の男性患者との関わりでは、自費率にはっきりとした偏りが出ていました」。その原因は、スキルではなかった。「患者さんの背景を見ようとしていなかった、私の問題だったんです」。
「売ること」の否定から始まるように見えて、内実はその逆だ。「私たちはボランティアではないので、自費を獲得することはとても大事です。ただ、売ろうとした瞬間に関心が結果に向かって、患者さんが置き去りになってしまう。そこにメカニズムがある」と中村は言う。
この日の講座では、初診コンサル・セカンドコンサルに続く「サードコンサル」「フォローコンサル」「エンドコンサル」それぞれの役割と位置づけが整理された。患者さんの状態や治療内容に応じていくつかのパターンがあり、どのタイミングで・どんな形で情報を渡すか——その設計が「患者さんが自分で決めた」という認識を生むことにつながるとされた。
後半にはロールプレイの時間もあり、実際のコンサル場面を通じてその設計を体感した。補綴説明の具体的な場面で受講者の一人が実際の患者役を担い、中村が講師として関わりながらフィードバックを行った。「この説明の中に、セールスに聞こえる言葉が一個もないことに気づいてもらえましたか?これは情報提供なんです」。
スタッフ間の関係性にも時間が割かれた。「今日のありがとう」と名づけた終礼でのチームへの取り組みが紹介され、受講者同士がその体験を共有するワークが行われた。ある受講者が「このセミナーに参加できるよう、昨日の診療の準備をしてくれたスタッフへの感謝」を語ると、その言葉を受けた当人が「その間、診療を回してくれたことが私は嬉しかった」と返した。言葉にならなかった感謝が、言葉になる瞬間だった。
数字は、患者さんからの「ありがとう」を数値化したもの。
「ホスピタリティが伝われば、数字は必ず動いていきます。伝わっていなければ、数字が正直に教えてくれます。優しさだけでは医院は守れない。数字だけでも患者さんは守れない。その両立が、ホスピタリティTCの役割です」。中村の言葉で第3講座は締めくくられた。
Day4を終えて——受講者に起きている景色の変化
全5回のスクールも、Day4を終えてあと1回。Day1〜3で種をまき、根を張ってきた学びが、Day4に来て受講者一人ひとりの「自分の言葉」として動き始めている。
バイアスを解除する技術、ペリオコンサルの設計、「売らない」コンサルの哲学。いずれも共通するのは「相手に向き合うための技術を、自律的に使いこなす」という視点だ。マニュアルや指示ではなく、自分で見て感じて考えて動く——それがホスピタリティTCの姿に近づいていくプロセスでもある。
「受講を重ねるごとに、景色が変わってきます。最初は『どうしたらいいか』で頭がいっぱいだったのが、今は『今ここで何が起きているんだろう』と自然に問えるようになってくる」。Day4を経た受講者たちに起きていることを、河合はそう表現した。
Day5(最終回)に向けて、受講者たちが持ち帰る問いは確実に変わっている。
FAQ
Q ホスピタリティTCスクールのDay4では何を学ぶのですか?
Day4はバイアスを解除する思考技術(第1講座)、多点接触で患者の納得を生むペリオコンサルの設計(第2講座)、売らない・追わない・説得しないコンサルの哲学と実践(第3講座)の3テーマで構成されています。前半3回で培った理論と実践を、より自律的な判断力として深化させる内容です。
Q 「バイアスを解除する」とは具体的にどういうことですか?
特定の患者さんや状況に対して無意識に形成した先入観のフィルター(バイアス)に気づき、自分の思考を意図的に動かして向き合い直す技術のことです。コンサルのスキルとは別次元の「思考の技術」として、Day4ではワークを通じて体感します。具体的なステップや内容はスクールで扱います。
Q 「売らないコンサル」とは何を意味しますか?
TCが患者さんを説得して治療を決めさせるのではなく、患者さん自身が考えて「自分で選んだ」と思える状態を作ることを指します。中村 綾が強調するのは、売ろうとした瞬間に関心が結果に向かい、患者さんが置き去りになるというメカニズムです。患者さんの自律的な判断を支えることが、長期的な信頼と自費契約につながるという考え方です。
Q ペリオコンサルはTCが行うものですか?衛生士の仕事ではないのですか?
歯周病治療に対する患者さんの「認識の土台作り」は、衛生士だけでなくTC・ドクター・衛生士が連携して行うものです。森 愛の講座では「多点接触」の重要性が強調されており、TCが最初の接点として触れることで、その後のドクター・衛生士による説明の説得力が増すという設計になっています。
JDHA 編集部日本歯科ホスピタリティ協会
ホスピタリティTC養成スクールの講座内容や、歯科医院の現場に役立つ情報を発信しています。
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※本記事はホスピタリティTC養成スクール第3期Day4の取材をもとに作成しています。個々の医院・受講者の状況により学習の経過や成果は異なります。特定の治療効果・経営効果を保証するものではありません。


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